こんにちは、ヘロリです照れ

 

本日も、番外編「実践高校公民科シリーズ」と題しまして、「高校の公民科で扱われれている題材の社会での実例やその活用例」について取り上げていきます。(第3弾)

 

本日のテーマは「労働市場について」です。

 

プロローグで取り上げた2017年度センター試験過去問の選択肢の中に

「④労働市場では、求職者数が需要量であり、求人数が供給量である」

というものがありました。労働市場では、「労働力が売買される市場」のことを指します。労働力を供給するのは、労働者、すなわち求職者になります。労働力を需要するのは企業側、需要量は求人数になります。「求人数が需要量、求職者数が供給量」という定義になるので、上の④は間違いということになりそうですね。

図で表すと下記の通りになります。

労働市場では縦軸が賃金、横軸が雇用者数になります。

需要曲線(企業の求人数)…賃金が安い労働者ほどたくさん雇いたいので、需要曲線は右肩下がりになります。

供給曲線(求職者数)…賃金が高いほど働きたい人は増えるので、右肩上がりになります。

需要曲線と供給曲線が交わる点で、賃金と雇用量が決まります。賃金はW0に、雇用者数はL0になります。

 

「労働力を売買する」という発想は日本人の感覚にはあまりマッチしないかもしれませんね。というのも日本は長く「終身雇用制」といって、一つの企業に入ったら、その企業で定年までずっと働き続ける、企業も従業員をやめさせないというスタイルを取ってきたためです。一方、アメリカなどは、簡単に人々が働く企業を変えていく(転職する)、企業側も比較的簡単に人を解雇するスタイルを取っています。「労働市場」の考え方のもとになっているのは「労働経済学」という経済学の中の一つの分野で、この「労働経済学」はアメリカ生まれの学問です。アメリカの実情には「労働力の売買」という考え方は非常にマッチしています。

 

ではここからが実践編です。実はこの労働市場、高校生の皆さんが社会に出ていくにあたり、「一番最初に待ち受ける、最大の壁」になる可能性があります。

 

「労働市場」の考え方は日本人の感覚にはマッチしないようなことを上では書きましたが、伝統的に日本でも労働力の需給バランスの影響を受ける労働市場があります。それは「新卒労働市場」です。日本では「新卒一括採用」といって、民間企業に就職したい人は高校3年時、または大学3年〜4年にかけて就職活動をして、卒業と同時に企業に就職する、というスタイルをとってきました。学校を卒業する人達が労働力の供給者でありその数が供給量、企業側の新卒求人数が需要量になります。

日本が右肩上がりに経済成長している時代にはこの新卒一括採用のスタイルはうまくまわっていたのですが、日本経済が不況に陥ると、このスタイルには弊害が出てきます。なぜなら企業は不況時に真っ先に新卒求人数(需要量)を減らすからです。不況時には企業は業績が悪化するので、コスト削減のために従業員の数を減らさなければならなくなりますが、「終身雇用制」のもとで、日本では解雇に対する規制も厳しく、今いる従業員はなかなか解雇しづらいのが現実です。(経験のある社員の方が率先力として企業の収益に貢献できるので、企業がそちらの処遇を優先する、という側面もあります。)

するとどうなるか、グラフで表すと下記の通りになります。

需要曲線は左側にシフトし、賃金はW0→W1へ、雇用量はL0→L1へそれぞれ減少します。

実際に私が大学時代に就職活動をした2010〜2011年頃にかけては、まだリーマンショックの後遺症で企業が新卒採用を絞っていた時期でした。何十社と選考を受けてもどこにも受からず、もう一年就職活動をする「就職留年」という言葉などが当時話題になりました。こういった不況期には新卒で正社員で会社に入ることができず、フリーターや派遣社員になられる方々も多くなる傾向にあります。

現在もコロナショックで、今後の企業業績は悪化していきますので、おそらく企業はまた新卒採用数を絞ることが予想されます。ただリーマンショックの時と少し事情が違うのは、2010年頃からいわゆる団塊の世代(1947~1949年のベビーブーム時に生まれた世代、人口が多い)が定年を迎えて大量退職が始まる一方、少子化傾向は続いており日本人の生産年齢人口(15歳〜64歳)は減少傾向にある、ということです。つまり企業は「人手不足」なのです。なので、リーマンショックの時のようには求人を減らさない可能性もありますし、仮に求人が減ったとしても、そもそも少子化で新卒者数自体が減っているので、新卒者数と求人者数がマッチする可能性もあります。

 

少し暗い話しになってしまいましたが、要は「自分が歩みたいキャリアは自分の力で掴み取っていく」時代になってきたということです。好景気だった時には、何となく高校や大学を卒業しただけでもそれなりの企業に入れて、そこそこの人生を送れたのですが、自分が就職活動をするタイミングで不況期に当たってしまうと、それだと通用しなくなる事例があるということです。でも不況期の就職活動でも、キチンと人生を歩んできた学生は、自分のやりたい道に進んでいます。幸せはいつも自分のこころと行動が決めていくということです。

 

この連載を書き始めたのも、そうした時代背景を考慮して、「なるべく早いうちから社会のことに触れて、自分の将来について考える機会を少しでも持ってほしい」との思いもあってでした。

 

この連載が皆さんにとって、少しでも社会のことを考えるきっかけになれば嬉しいです。またお会いしましょう!