入塾テストの丸つけを終えた塾長が教室に入ってきた。


呑気に座る私の横で、緊張の面持ちで座る母。
そんな母に、塾長は信じられないことを宣った。


テストは100点でした!
娘さんは天才です。
ぜひ、うちの塾の一番上のクラスでトップの学校を目指しましょう!


は!!??
100点!?
そんなはずはない。
適当に回答し、なんなら考えることも放棄していた私のテストが、100点!?


心の中で私は叫んだが、
隣の母はホクホク顔で、スッカリ有頂天になっていた。


先生、どうぞよろしくお願いします!!!


ひれ伏さんばかりに深々と頭を下げ、
神様を崇めるようなうっとりした視線で
母はそのインチキ塾長を見つめて言った。


こうして、私はこのインチキスパルタ塾で受験生としての地獄の生活をスタートさせたのだ。


郊外の一軒家で暮らしていた私にとって、
この都会にあるスパルタ塾は、通うだけでも相当な時間と労力を要した。


学校が終わった夕方から、
電車か車かは忘れてしまったが、
何れにしても1時間以上掛けて通学していた。


土日ももちろん朝から晩まで塾で過ごし、
これまでのんびり普通の小学生をしていた私にとっては、突然過ぎる変化だった。


先生は何名かいたが、
みんなとても怖くて私は常に怯えていた。
今の時代ではあり得ないが、
授業中に上の空だったりウトウトしようものなら、
容赦なくゲンコツかビンタが飛んできたし、
大声で罵倒されたり、みんなの前で晒し者にされるのは、その塾では日常茶飯の事だった。


しかし一番最悪だったのは、
夏休みなどの長期休みにある特別合宿だ。


みんなでどこかの田舎の宿舎に篭り、
ひたすら朝から晩まで食事とトイレ以外はずっと勉強をするのだ。


頭にハチマキをして、夕方までは先生の授業を必死で聞く。
何故必死か。
理由は、夕方からの問題を解く時間に、
昨日習ったことの演習問題をさせられるのだ。


膨大な数の演習を解き、
その全てを終えて、しかも100点になるまで、
眠ることは許されないのだ。


何度も何度もやり直しをして、
先生に丸つけをしてもらうが、
全て自力で正解するまでは
何時になろうとも眠ることはできない。


深夜に眠ることになった日は、
次の日は当然授業中に睡魔でウトウトしてしまう。


そうすると、先生から鉄鎚が飛んできて、
しかも授業も頭に入らないから
また問題が解けずに深夜まで眠れない‥


そんな負のループに陥りながら、
僅か11や12歳の子どもたちが
大人たちの暴言暴力に怯えながら、必死に勉強をしていたのだ。


今考えると、異常だった。
子どもを暴力で支配するのもおかしいし、
眠らせない、なんて根本的に誤っている。


でも、私は母の期待に応えようと、
そんな環境で必死に食らいついていた。


続きます。