気が進まなかったが、重度の自閉症である兄を結婚式に呼ぶことにした私。
兄のケアをどうするかなどを母と相談したくて、
兄も呼ぶ、ということを母に伝えた。
ようくんにも式に出席してもらおうと思うよ。
付き添いとかどうしたら良いかな。
そう母に言ってみた。
あ、そう。じゃあ、私(母)の友達に聞いてみるわ
当然のような顔で答える母。
え?それだけ?
私は心の中で愕然とした。
大声を上げて走り回る兄を、自分の結婚式に出席させる、と言った。
そんな娘に掛ける言葉が、まるでスーパーに連れて行くよ、と言ったことへの返事のように、
それだけ?
どれほどの勇気と家族への想いがあって言った言葉なのか、母には解らないのか。
それに対する答えが、それだけ?
一生に一度の大切な結婚式なのに大丈夫なの?
気持ちは嬉しいけど、無理してない?
旦那様のご家族は大丈夫?
結婚式くらいは貴方が主役になりなさい。
こんなような言葉をかけてくれるかと、
淡い期待をもって話した自分がバカだった。
そう、母はそんなことを言う人ではない。
兄のことで常に頭がいっぱいで、私のことなんて何も気にしていないと、これまでの長く苦しい生活で痛いほど知っていたはずなのに。
でも、一生に一度の晴れ舞台くらいは、
私のことを第一に考えて気にしてくれるのではないか。
そう期待して出席させる、と言った私が甘かった。
やっぱり母は母のままだった。
幼い頃から、私は母に可愛がってほしくて、優しくしてほしくて、
ようくんの世話を頑張ったりケアしてきたけれど、
母は常に当然、といった様子で、
私を慈しんだり優しい子だとと可愛がったりすることは無かったではないか。
そんなことを繰り返してきて、
十分過ぎるくらい解っていたはずなのに、
この期に及んでもまだ、私は母からの温かい言葉や愛情表現を望んでいたなんて。
淡い期待と引き換えに、自分の一世一代の結婚式まで犠牲にするなんて。
本当に私は大バカ者だった。
結婚式当日。
兄は予定通り結婚式にやって来た。
外資系超高級ホテルのチャペルと
着慣れないスーツに身を包んだ自閉症の兄。
かつて幼い頃に経験した帝国ホテルでの悪夢が
ひしひしと浮かび上がってきて、私は不安になった。
ウェディングドレスに身を包み、
本来なら人生で最高の日にも関わらず、
私は兄のご機嫌が良いのか悪いのか、
どうか機嫌の良い一日であってほしい‥
そんな不安な気持ちを胸に、
兄の様子ばかりを伺っていた。
そしていよいよチャペルに移動し、
結婚式が始まった。
父と腕を組んでバージンロードを歩く時も、
兄が変な声を出していないか、
起立している列席者のなかで、一人だけちゃんと大人しく座っているか。
そんなことばかり気にしながら神父様の前に立った。
神父様の優しい笑顔に、私の不安な気持ちも少しずつ溶けてゆく。
こんな優しい笑顔を母親から与えてもらいたかった‥
そんなことを考えながら、このまま滞りなく式は進むのかと思えたその時。
やはり事件は起きた。
続きます。
