坊主で真っ黒に焼けた少年がそこに見える。
学生服を着て、恐らく中学生なのか、また高校生なのか。 強い眼差しと、目には少しの涙を浮かべているよう。
キュキュっと運動靴の音が鳴り響く廊下なのか。 涙の理由はわからないのだが、 その立ちすくむ姿に何か強さを感じることができる。 夕暮れ時の校庭で、ひとり素振りをする少年。
私は何を求めて、これを続けているのか? と思いながらも、ひたすらに続けていく。 継続は力なり、という言葉があるが、 その言葉は彼の姿そのものを表すかのよう。 ボールの弾ける音が後ろから鳴り響き、私はすぐに後ろを振り返る。 その時の動揺は、甲子園の試合で球場に立った自分の姿を想像させた。 私はとっさに、鋭い視線が自分に集中することを感じずにいられなかった。 ただただ、観客の声援と罵声と、監督の大きな声、 そしてチームメイトから飛び交う言葉たち。
その全てが聞こえる中に立って、 まるで自分だけ時間が止まったかのよう。
その時の感覚は、ひんやりした小川の水のように、 刺さるような痛みと硬直感をいざなう。 私には何が出来るのだろう? その瞬間ふと世界が止まって私は何を思ったのか。 あれだけの声援も罵声も何もかも、全てが突然聞こえなくなる。 この音のない世界で、わたしは何を感じているのか。
それが自分にも分からなかった。 私には何が出来たのか、 この言葉が走馬灯のように頭を駈けめぐり続けている。
そして、苦しくなる。 私にはそれができない。 それができない。 その言葉が回り続ける。 感覚が次第に凍りつき、私は何も感じなくなっていく。 それは冷たい音のないこの世界のようだった。 キーン!と響くバッター席からの音でふと我に返った自分を感じた。 世界は突然回りだし、答えのないまま私はひたすら走り続ける。 そのボールを掴みたくて、それを追いかける。![]()
どうして私は走っているのだろう?とまた自分の中から言葉が浮かんでくる。
これをどうすることも出来ないまま、私は世界に希望を求めていた。 次第にはっきりと色を取り戻した現実に、鋭い声が響き渡る。 私は、はっと、これがリアルなことなのだと気がついた。これでいいのだと。 何なのかという意味はずっとわからないままだが、 歳を重ねるいまも世界は変わらずにいる。
時代は変わったとよく聞くが、それすらもわからない。
見える景色は変われど、何がかわったのかわからない。
そんな気持ちがどこかに残っている。 きっと、この答えを出し続けようとすることで、 私の心は過去の回想と繋がるのだろうか。 そんなことを思いながら、私は目の前の現実に立ち向かい続ける。 その世界に色はあるのに、なんだか心はセピアのよう。 その世界に音はあるのに、なんだか音は平坦に聞こえてしまう。 突然、私を呼ぶ声がして周りを見渡してみるが誰もいない。 空は眩しい太陽に包まれて、私を取り残していく。
だが、何だか寂しくはない。 だけど、もう一回、その声を聞いてみたくなった。 それを聞いてみたくなった。 何故なのかはわからないが、心にじんと響き渡るんだ。
暖かいバイブレーションがじんじんと。 きっと過去の苦しみは、解けないかもしれない。 だけど、未来は明るいのかもしれない。 そんな自己矛盾を思いつつも、ほんとうは、 拓けていく未来の方が力強いと、 何となく分かっているのかいないのか。 あの時の球場の歓声と重ねあわせて、静かに思った。 私は変われるのかもしれない。 そして、自由はずっとすでに、 心の中にあったのかもしれない、と。




