神はないと思っていたのに、私はそのドアの門を叩いていた。 大きな木造の堂に、古びたカラーがはがれているのが見える。
どうして私はそこに入りたいと思ったのか、わからないが 奥から聞こえる小さな鐘の音に興味を惹かれたからなのかもしれない。
「いつかその音が大きく大きくなっていくのだろうな」
という不思議な疑問を抱えながら冷やっとする室内へと足を誘った。 すると、奥には畳の間が見える。
数名のお坊さんが美しい織物姿で奥の方から出てはコの字を囲むように 一人一人静かに座布団の上に座って行った。
とその時、シャランという鈴の音なのか何かが聞こえ、 ざわざわとお坊さんが支度を始める。
どうやら、そろそろお経が始まるのかもしれない、 と感じながら自分もそわそわと周りと見渡して落ち着かない。 ゴーン!という大きな鐘の音が鳴り響く。
散漫になっていた意識はきっぱりと目覚め、一瞬にして静けさに飲み込まれた。 それは空気だけでなく、目で見てもはっきりと感じ取れる緊張感。 私は左手にお経を広げ、右手で大切に支えながら、声に出して読むことにした。
最初は恥ずかしかったのだが、次第にお坊さんと周囲と同化していく自分が、 何とも心地良かったのか、そうでなかったのか。
わからないが、ふわっとした優しい空気に包まれたことだけは覚えている。
化粧もせずにやってきた私は、 この空間で何にもとらわれない喜びを感じていたような気がした。
そして、だんだんと迫力を増すお経に、 クライマックスのような何かを体感していた。 あぁそろそろ終わりに近づいているのかもしれない、 そんな力強さと気迫、この最後を感じる気持ちをどこへ向けて放出すればいいのか。 まるでバレーボールの試合中、自分の手にあるボールを どこへ送り出そうかという感覚に似ていた。
感覚というより、もしかすると、勘というものに近いのかもしれない。 そんなことを考えながら、聞こえてくるお坊さんたちのお経にに耳を傾ける。
その静けさと、集中した世界観と一体化し、 無心でただただお経を読み続けるなかに答えを待ってみたかったのかもしれない。 夜明けは近い、とふと思い、 そしてさらに待ち続けてみたくなっていたのかもしれない。 このクライマックスの向こう側を。


