田舎の道路の道端に、小さな女の子が遠くを眺めて立っていたんです。
それは蝉の鳴く8月。蜃気楼が揺れるほど熱した道路の真ん中。
暖かい日光のにおいを感じながら、手には虫取り網をぎゅっと握りしめて。

その女の子は、何かを追い求めていたんです。
その求めているものが何なのか、分かっているのか分かっていないのか、
耳に聞こえる蝉の鳴き声にいざなわれるように歩いて行く。
一歩、一歩、そう、ゆっくりと地面のデコボコの感触を足の裏に感じながら。

ゆっくり、ゆっくり進んでいくと、そこには広い芝生が広がっていました。
蝉の鳴き声が大きく響き渡る中、草のみずみずしい緑の香りを感じながら、
両手でクシャクシャとススキの茎とその葉を握っては
離しながら歩いて行ったんです。


そして、立ち止まりたくなって、上を向けば眩しいほどの太陽が、
視界いっぱいに差し込んで来たこと。

その眩しい感覚を感じて、あまりの眩しさにその小さな手で、
とっさに両目を押さえてたくなったんです。

眩しくて眩しくて目を隠したその時、ぎゅっと目を閉じたその子は
風が吹き、そして、その風で草むらが
サラサラと揺れる音が耳に伝わって来たんです。

急に、目を押さえて真っ暗な世界に包み込まれて怖いと思ったのか、
ふと逃げ出したいという気持ちがどこからか溢れて来ました。

しかし同時に、じんじんと全身に当たる太陽の熱がどこまでも暖かくて、
その優しい熱は何度も何度も、語りかけるように私の身体に届いてくる。

わたしはその時にまぶたの奥で、もう一度、
恐る恐る目の前の暗闇の世界を見つめたくなったんです。

その暗闇の世界を見て、安心したのか、深いため息をついていました。

その瞬間、いつの間にか、自然とわたしの口元には微笑みが
浮かんでいることを感じたんです。

そこで、暖かな太陽の熱は、わたしに教えてくれていたのかもしれません。
安心して大きく吐く息は、どこまでも暖かな光に包まれて、
耳から聞こえてくとともに。

そう、真っ暗な世界は暖かな世界へとつながっていたんです。

それを知ってか知らずか、その女の子は何事もなかったように、
風を切ってグラウンドを駆け巡る。


どこまでも、どこまでも、飽きるまで走りながら、
その暖かく、眩しいほどの太陽を感じながら。

そして疲れたのか、それともただふと立ち止まりたかったのか。
わたしはグラウンドの中心に立ちとまって、一面に広がる風景を見渡していました。

何度も何度も、ゆっくりと、端から端まで見渡しながら、
目の前の太陽の光の燦々とキラキラ輝く世界をただ眺めたくなっていたのか。
太陽の光で、キラキラとした揺れるあの草たちを見つめていると、
わたしはあることに気がついたんです。


そう、それはあの眩しくて目を押さえた時の、真っ暗な世界で体験したあの微笑み。
そんなことを感じていると、遠くから聞こえてくる船の汽笛。

見ている世界がまるで桃源郷のように感じられ、あの暖かな太陽の光はいつも
わたしを美しく優しい場所へと連れて行ってくれるのだと、
そんなことをただただ、感じていたのです。


その美しい世界は、実はわたしの心に映し出された桃源郷。
まるで映画のワンシーンを見ているかのような、壮大な美しさ。
そして、風のそよぐ音がオーケストラのようにわたしを包んで行ったんです。

そんな心地よさを見て、感じながら、
素直な自分にいつも還っていけるのだと、
それでいいのだと確信した気持ちになっていくんです。
あの微笑みと共に、わたしはいつでも、あの場所へ還っていける。

軽やかな気持ちがさらに美しい世界を見せてくれるのだと、
車の通るノイズを聞きながらも幸せな気持ちが湧き起こっていきます。

そう、わたしはあの時から、いつも、ひとりじゃなかった。
私を待っているこの場所は、いつも、目を閉じればここに広がっています。