なぜ、僕とユノがこんな関係になったのか。
それは。
去年の冬、少し前ぐらいだったか。
ユノが仕事場に遅刻してくることが増えた。
仕事熱心なユノが、どこか上の空になったのもその頃だったと思う。
それを心配したマネージャーや会社側が、僕たちに再び同居を提案してきたのもその時期だった。
そしてそれを断ることもできず、僕らは再び同居をすることになった。
場所はユノの家。
僕の家よりも広いから、ただそれだけの理由。
中心部に行くには少し不便な閑静な住宅街にある大きな一軒家。
家に着くまでに大きな公園があって、そこでは子供が楽しそうに遊んでた。
何もかもが満たされているように見えるこの場所は
幸せに満ちているようだった。
そして、
1人で住むには広すぎるユノの家も外から見るとそう見えた。
なのに、この家には色んなものが乱雑に床に置かれていて
ユノがここにはただ寝に帰ってきているだけだとすぐに分かった。
料理をした形跡のないキッチン。
封の開けられていない郵便物。
とっくに賞味期限の切れている牛乳パックがひとつ入っているだけの冷蔵庫。
主の居ない家のような、空っぽな部屋。
ソファに乱雑に置いてある薄いブランケットに丸まって寝ているのだろう。
もうすぐ冬になろうかというのに、僕の脳裏には大きな体を小さく丸めて眠るユノの姿が
容易に思い浮かんだ。
「好きな部屋使って。あと、ごめん。迷惑かけて。」
申し訳なさそうに頭をポリポリ搔きながら謝るその姿は
僕が知ってるどのユノよりもとても小さく見えて
思わずこう言ったんだ。
「いいですよ。家族だから。」
何故僕はあの時、あんなことを言ったのだろう。
そう何度も後悔しながらも僕はどこかで優越感を感じていた。
僕がユノを支えてやらなくては、と。
そしてある日の夜。
それは僕が越してきてまだ数日もたたないぐらい。
酷くユノが酔って帰ってきた。
呂律も回らないほど酔ったユノの姿はどこか痛々しくて僕は思わず強く抱きしめた。
少しでも落ち着くように、と。
僕が居るから、と。
そして
「大丈夫?」
と、声をかけた僕にユノは一瞬ひどくうろたえたような眼をしたのをとても覚えている。
次の瞬間。
ユノは僕を急に押し倒して唇が切れるほどのキスをぶつけてきた。
酒とタバコの香りが混じったそのキスに抵抗できたのは最初のうちだけ。
絡みつく舌の生ぬるさは次第に僕の下半身に甘い疼きを与えだし
痺れるような感覚に軽い眩暈を感じた。
ユノの薄い上唇は思ったよりも柔らかく肉感的で
その感触にいつまでも触れていたいとさえ思ったし、
下着の中に伸ばされた手をどかそうともしなかった。
そして、その後は互いに昂ぶったもの擦りあい吐き出した。
そこでやめたらよかったのに。
ユノは後ろから突き刺し、僕はそれを受け入れた。
痛みよりも何よりも、あの瞬間。
僕は確かに悦びを感じた。
ずっと心の奥底に秘めていた感情。
それは自分でも気づかないほど深い深い場所にあったものなのに。
これを「恋」と呼んでいいのかも分からない。
そう呼ぶのには脆いほどの感情に僕はひどく混乱しながらも
どこか悦びに震える自分が居た。
欲しいものをようやく手に入れたような、そんな感覚だった。
もしかしたらこの感情は錯覚かもしれない。
だから、僕は揺らされながら薄く眼を開けあなたの顔を見た。
あなたはぎゅっと眼を閉じ僕の方を見ないまま、ずんずんと腰だけを振り続ける。
それでも、虚しさは感じなかった。
こうやって、人は分別を失い奈落へ向かっていくのかもしれないと
頭の片隅で思いながら僕は揺れる体を抑えることはできなかった。
あの日。
僕は抱かれたのではなく、あなたを抱いたんだ。
僕は、心であなたを抱いた。
あんな薄いブランケットじゃなく、僕があなたを温めてやろう。
そう思ったんだ。