回した腕が熱かったのは、夏のせいなのかあなたのせいなのかは分からない。

ただ僕はユノを強く強く抱きしめた。

 

こんなに強く人を抱きしめたのは初めてだった。

 

 

大事なものは壊れてしまうのが怖くていつも優しく扱ってきた。

そうすれば、壊れてしまっても自分のせいにしなくても済むから。

仕方ない、と思えるから。

 

でも、あなたは違う。

僕が強く求めればあなたはもっと強く僕を求めてくれる。

本当に大事なものはきっとこういうものなんだと今なら思える。

 

あなたは僕の当たり前をいとも容易く覆す人。

いつか自分が自分じゃなくなりそうで、それが少し怖いとさえ思うけど

変わっていく自分が嬉しいとも思える。

 

 

「チャンミン、ちょっと痛い・・・」

 

ユノが笑いながら僕の背中をポンポンと叩く。

 

「ちょっと太りましたね。」

 

なんて僕は嫌味を言う。

それを聞いてあなたは大声で笑う。

 

愛してるだとか、好きだとか愛の言葉はこの世に沢山あるけれど

今の僕らにはどんな言葉も当てはまらないような気がした。

 

小さな嫌味は僕らしい。

それに笑ってくれるのがあなたらしい。

今はただそこに、傍に居てくれればそれでいい。

 

すぐ傍で聞こえるあなたの笑い声も、腕の中にある体温も、夏の汗ばむ香りも

全部僕のものだ。

 

 

雨に濡れたアスファルトの匂いはどこか懐かしく、優しい気がした。

厳しい暑さを鎮めてくれる天気雨は、僕らの上に降り注ぎ穏やかな時間を与えてくれる。

さっきまであなたの居ない世界へ足を踏み出そうとしていたのに、

今はもうあなたを絶対に離したくないと思う自分の意志の弱ささえ愛おしく思えた。

 

 

 

「なぁ、お前・・・泣いてるの?」

 

 

言われるまで気づかなかった。

僕は泣いていた。

 

 

零れ落ちた涙をユノの指が一粒ずつ拭ってくれる。

そんなことをされるから、ますます溢れてくる涙を僕は止めることが出来なくて

僕はユノの胸に顔を埋めて泣いた。

こんなに近くにいるのに、僕はあなたの名前を呼びながら泣いた。

嬉しくて泣いたのはきっと初めてだった。

 

 

その間ユノはただ黙って僕の背中を優しく撫でてくれた。

雨で濡れた身体に直接感じるあなたの手のひらの温もりは優しいけれどどこか

熱を帯びてて、僕ら不謹慎だけどきっと同じことを考えていたんだ。

 

 

さっきよりも雨が強くなって、ずぶ濡れだった。

ただそんな雨の中を無言で僕の手を強く引っ張るユノに

僕は水溜りさえ気にせずにただ着いていく。

 

 

靴の中が水浸しになって、気持ち悪いのに

早くあなたに抱かれたくて、

ただそれだけしか考えられなくて

僕はあなたの手を強く握り返す。

それに応えるように、あなたも僕の手を握り返す。

 

 

 

もう離さない、そう決めたら

僕はもう何も怖くなくなった。