暑すぎる日差しのせいなのか
あなたのせいなのかは分からなかった。
ただ眩暈のように、ゆらゆらと揺れる僕の心。
陽炎みたいに揺れて、まるで初めから何もなかったみたいに消えてしまうような
この恋を、僕は掴んでしまってもいいんだろうか。
そう思ったから、ユノを抱き返すことは出来なかった。
一度目ならただの過ち。
二度目の過ちは、確信。
確信してしまっていいのだろうか。
ずっと、ずっと心の奥底にしまいこんで自分でさえ気づかないフリをしていたのに。
今更それをさらけ出してしまうことが怖かった。
自分が変わりそうで。
僕たちが僕たちでなくなりそうで。
何も考えずに突っ走れるほど自由な生き方を僕は知らない。
雨が降れば傘をさすように、身を守る術を知ってしまっている僕は臆病者だ。
そして、あなたはいつだってそんな僕を守ってくれたのに
どうしてそんなあなたが僕を揺さぶるのか。
あの日のように。
あの別れの朝のように、僕を突き放してくれたほうが良かった。
愛の言葉なんて今さら聞きたくなかった。
なのに、心が震えた。
愛される喜びを知ってしまったから。
そして、苦しくなった。
愛することも、愛されることも自由にはならないことを知ったから。
求めることは罪で、求められることは罰。
僕らは互いに不正解。
求めても求められてもいけないのに。
正しいことだけを見つめて、真っ直ぐ生きてきた僕ら。
あなたに不正解は似合わない。
夏の暑さで少し気持ちが揺れただけだと良かったのに。
溶けてしまいそうなほど暑い日。
いっそこのまま溶けてなくなってしまえばいいのに、僕もあなたも。
僕たちを取り巻く全てのものも。
そしたら、もう悩むことなんてないのに。
ふと気づけば蝉の声が不思議とピタっと止まっていた。
「チャンミン、待ってるから」
耳元で聞こえる声は少し震えているようで
僕の身体に回された手に力がこもる。
それでもまだ僕の腕は宙ぶらりんのまま、あなたを受け止めることはできないでいた。
ほんの少し腕を曲げれば、苦しいほど愛しい人を抱きしめることが出来る。
抱きしめればもっと苦しくなる。
きっと、息も出来ないほど苦しくなる。
ひとつも自由にならないような僕の両腕が抱えているものは何だろう。
あなたよりも大事なものなのなのか、そう自分に問いかける。
夏の暑さのせいでもなく
陽炎のような幻でもない
あなたの存在は確実に僕の中心に存在しているのに。
その時、はらりと冷たい水の感触が首を伝った。
ふと空を見上げた。
天気雨だった。
「雨だ・・・・」
ポツリと僕が呟いた。
「あぁ、雨だな」
悠長にユノが笑って答えた。
雨が降れば傘をさす僕だけど、生憎今は傘がない。
雨に濡れたのはいつぶりだろう。
傘は雨から身を守ってくれるけど、傘がなければ両手は自由だと今さら気づく。
だから僕は、
自由を手に入れた両手でユノを抱きしめた。
強く、強く抱きしめた。