それから間を置かずして僕も義務を果たすべく家を出た。

 

 

それは規則正しく起きて、食べて、働いて、寝て、の繰り返し。

僕にとっては非日常のようなこんな生活は却ってユノを思い出すことが少なくすんで

良かった。

 

オシャレとはほど遠い短い髪の毛は洗うのも乾かすのもとても楽だし、

洋服だって沢山はいらない。

それに何より、目の前に気を揉む相手がいないことは楽だった。

 

ユノの存在は僕にとって大きすぎて時に苦しくなるから。

 

幼い初恋のように甘酸っぱく、時折思い出し幸せな記憶に包まれるようなそんな恋だったらよかったのに。

嵐の中で出会い、荒波に逆らいながらそれでもと手を伸ばしたような僕の恋。

 

掴んだと思ったその手を離したのは僕のほうなのか、

ユノのほうなのかは分からない。

 

そんな事をまだ時々考えてしまう。

 

多分、僕はあなたのことを嫌いになりたいんだと思う。

嫌なところなら山ほどある。

 

性格が正反対なとこも

デリカシーに欠けるとこも

仕事熱心すぎるとこも

自分に厳しすぎるとこも

 

全部嫌いだ。

 

でも、それは僕にはないものだからだって気づいてる。

だから嫌いになる理由を僕はまだ考え続けているんだと思う。

 

 

そんなことをぼんやりと考えてながら週末を待つ。

 

そして、ようやく来た週末はとても暑い日だった。

こんな都会の真ん中に頼りなく立つか細い木には不釣合いなほど

蝉の大きな声がよく響く。

 

近所のカフェでテイクアウトしたアイスコーヒーを飲みながら、目的地を決めず

日陰を選びながら何となく歩く。

小さく砕かれた氷は薄いカップの中であっという間に溶けていく。

たった数分ですぐに額が汗ばんできて、そこら辺にある小さなベンチに座ろうかとも思ったけど、やっぱりやめた。

 

土曜日の午後。

行き交う人の中に紛れてじっとその中に佇んだ。

 

ただ単純に過ぎていく時間。

こういう普通の生活を強く望んでいた昔の自分はもういないことにふと気づいた。

 

日陰から一歩足を伸ばしてみる。

地面から照り返す熱に、一瞬クラリとしそうになって目を強く閉じた。

 

だけど、今なら一人で歩けるような気がした。

 

 

なのに。

 

後ろから僕を呼ぶ声が聞こえた。

 

 

「チャンミン!」

 

 

 

僕の好きな店で買ったパン屋の袋を両手にぶら下げて

「元気か?」なんて笑って立っているユノがいた。

 

 

アスファルトに立ち昇る陽炎がゆらゆらと揺れる。

蝉の声が煩すぎてあなたが何を言っているのかよく聞こえないんだ。

 

 

何もかも、全てが思い出だと言えたらいいのに

振り向いた途端に胸が疼きだして、僕はまた道に迷ってしまった。