うまいと思えたことなんて1度もない。
ただ、あなたのようになりたくて咥えた煙草は
苦いだけの悲しい味がした。
僕が、初めて煙草を吸った時。
そう思った。
煙草を吸うあなたと、吸わない僕。
それはまるで大人と子供のように、見えない境界線で区切られているような
そんな感じ。
広い背中を遠くから眺め、早く吸い終わらないかと苛立つ気持ち・・・
あなたに分かるだろうか?
電柱にくくられて飼い主を待つ犬みたいに、忠実に。
別に待たなくてもいいのに、待ってしまう。
それが嫌で僕も吸い始めた。
だけど、向いてない。
すぐにそう思った。
それからずっと吸ってなかったのに、今日は吸いたかった。
あなたに近づきたい気持ちは、今も昔も何一つ変わっちゃいない。
不思議だと思う。
あなたと肩を並べて、こうして煙草を吸える日が来たことも
昨夜、あんなに激しく抱き合ったことも
僕が・・あなたのことをこんなに好きになってしまったことも。
抱かれる前より、今のほうが何十倍も好きになっているような気がした。
女々しいってこういうことだと今なら分かる。
泣きたいぐらい、好きだと気づいた今。
だけどたったひと言の、「好き」すら言えない僕に涙を見せる権利なんてあるわけなくて。
紫がかった朝焼けが徐々に明るく姿を変えてゆく。
一日が始まる。
あなたの新しい一日が。
「ユノ、いよいよ今日だね・・・」
「あぁ・・そうだな」
「どんな気分?」
「思ったよりも普通。もっと緊張したり、不安だったりするかと思ったけど・・・やるしかない
って腹くくった感じ。」
どこまでも潔くあなたらしい。
そんな人を好きになって良かった、そう思える。
「ユノ・・・昨日のことは・・・忘れる?」
「忘れない。一生忘れないだろうな。」
「僕も、きっと一生忘れないと思う。」
これから僕らはどうなるんだろう。
秘密を共有しあって、罪を背負いあって、なのに答えは何一つ見いだせなくて、
これが始まりなのか終わりなのかすら分からない僕らの恋。
これを恋と呼んでいいのかさえ分からない。
でも言わなくても分かってる。
互いの気持ちは、体を重ねた瞬間から気づいていた。
だけど僕らはズルい。
いつでも逃げられるように、あなたも僕も決して言葉にはしなかった。
それは誰の為?
あなたの為?自分の為?
誰を守りたいのかすら分からない、こんな嘘で守れる真実なんてないことぐらい
最初から分かってるのに。
とうに短くなった煙草の火を消して、二人でぼんやりと遠くを見つめた。
やっぱり少ししか吸えなかったな、僕には向いてない。
「チャンミン・・煙草、もう吸うな。」
突然ユノがそう言って僕の髪を撫でた。
それはまるで突然吹いた優しい風のように。
「どうして・・・・?」
「俺のせいだろ?」
だったら何だって言うんだ・・・
「待たせてばかりだったから、ごめんな。」
そう言うとユノはくるりと後ろを向いて部屋へ帰ろうとした。
「・・・・待っとけ、とは言わないんだ?」
「・・もう、待つな。」
僕は待たされてたんじゃない。
待ちたかったんだ、ただあなたと一緒に居たかっただけ。
今ようやく気づいたのに。
あなたは、待つなと言った。
それから少ししてユノは出て行った。
玄関で恥ずかしそうに不慣れな敬礼をして、背筋をまっすぐ伸ばして出て行った。
僕は、閉まっていく扉をただじっと見つめていた。