ユノが入隊する最後の夜を数人の仲間と一緒に過ごした。
何だか初夏なのに、ひどく蒸し暑い夜だった。
数日前に綺麗に刈り上げられた嫌味なほど形のいい小さな頭が僕の目の前を行ったり来たりして、忙しなく動き回る。
今日ぐらいゆっくりしたらいいのに、そう思うけど言葉には出さなかった。
そしてひっきりなしになり続ける電話。
気をつけて、とか頑張ってこい、とかそんな激励の電話みたいで、その度に「ハイ、頑張ります!」なんて律儀に電話越しでも頭を下げるユノの姿に僕は少しイライラしてた。
僕に足りないのはそんなところだって分かってる。
これがユノという人間なのも分かってる。
それを見てた友人たちが
「やっぱりあいつって人気者だな」なんて揃いも揃って褒め称える。
「見てるだけで疲れる・・・」
ふと漏れた僕の本心を聞いた誰かが言った。
「そこがお前とユノの違いだよ」
分かってる。
だから、嫌いなんだ。
ようやく電話の嵐が過ぎ去って、さぁ今から朝まで飲もうなんて一番張り切ってたくせに
最初に倒れこんだのはユノで、それに続くように続々と仲間も床に突っ伏して寝て
しまう。
結局、僕はグラスになみなみと注いだワインを何杯も一人で飲み干した。
大事な日に飲もうと決めてたワインだった。
飲んでも飲んでも酔えなくて飲めば飲むほど鮮明になってしまう押し殺していた気持ち。
時々取り出して眺めて、まるで初恋みたいな甘酸っぱい気分になったり落ち込んだりして、
やっぱりこのままでいいって大事に閉まっていた僕の気持ち。
それなのに、この夜は少し僕を大胆にさせた。
今となってはその理由はよく覚えていない。
ただ、どうしよもなくあなたに触れたかった。
僕は無防備に寝ているユノにそっと手を伸ばした。
綺麗にそろえられた襟足にゆっくりとなぞってみた。
少しチクチクとする感触にゾクっとした僕はもう正気じゃないのかもしれない。
見た目とは真逆の触れたら柔らかい髪の毛が好きだった。
そしてその先にある、やたら耳の端にあいてる今にもちぎれてしまいそうなピアスホールが好きだった。
あなたの体の中で何だか一番不安定な場所のような気がしていたから。
重すぎても、小さすぎても似合わないそのピアスホールは
まるであなたに掴まる僕みたいだと思ってた。
だから、そこにもそっと触れてみた。
そして触れるか触れないか分からないぐらいのキスをした。
そんな僕らの影をダウンライトが壁に映し出す。
少し触れただけなのに、ひとつに重なるように見えたその影は
何だか僕を余計に辛くさせた。
唇を離そうとしたその瞬間、
「もうやめるのか?」
そう声をかけてきたのはユノだった。