死んでしまおうか、ふとそう思って僕は水に顔を沈めた。
勿論苦しくなってすぐに顔を水から上げる。
その時間は正味1分弱。
あっさりと顔をあげて、最初に目に映るのは浴室の見慣れたタイル。
馬鹿げたことだなんて分かってる。
風呂場である日死んでいた、なんて格好がつかないし。
なのに、そうやって本気で死ぬつもりなんてないくせに少しだけ死にたいフリをするのは
数年前からの僕の病気みたいな癖みたいな、まぁ、そんなもの。
それからタオルを腰に巻いて、まだ少し濡れた体のままソファへ倒れこむ。
濡れた髪から零れてくる雫が背中を伝う。
それがやけに冷たくて少し身震いした。
そして、タオルの端を少し捲って僕は自身に手を伸ばす。
まだ力なくうなだれてるソレを下から上に優しく撫でて、そこに意識を集中させる。
そうすると決まって急に僕の脳裏にはある人が浮かんでくる。
「ユノ・・・」
会いたいのに、会えない人。
近いのに、遠い人。
好きなのに、嫌いな人。
小さく吐息と一緒に吐き出すその名前に、僕はいつも苦しくなる。
呼ばなきゃいいのに、呼んでしまう。
それなのに、その名を呼ぶだけでグっと一気に力を増したような下半身の熱は
いつのまにか僕の手の速度を速めてしまう。
リズム良くタオルの下で上下する手の動きは、まるでもう僕の手じゃないような、
他の誰かにされてるような。
そんな錯覚にさえなる。
「んっ・・っ!」
急激に昂ぶる熱に抗えない、僕という愚かな人間。
男ってみんなこんなに単純なのだろうか、と同じ男ながら馬鹿だとさえ思うのに
ゆっくり後ろのほうにも手を伸ばす僕は、僕が知ってるどんな男よりもきっと馬鹿なのかもしれない。
乾いたそこは、まだ自分の指一本すら受けられない。
早くどうにかしたくて、前にある手をいっそう勢い良く滑らせる。
そろそろ限界かも。
そう悟って僕は思わず四つん這いになる。
ハラリとバスタオルが落ちて、あらわになる自分の格好はきっと間抜けだろう・・なんて
俯瞰で自分を見るけれど、やっぱり欲求には抗えない。
「はぁ・・あっ・・・・ん・・・」
片手で自分の体を支えながら、もう一方の手は忙しなく僕自身をこすり続ける。
先の方に少しだけ爪を立てて強めの刺激を与えると、その痛みと快感に僕はいっそう身震いする。
これはあの日あなたが僕にしてくれてたこと。
「んっ・・・・・!!あぁ・・・」
大きく吐き出す吐息と一緒に僕から放出される熱いものを
手の平に受け止めて、慣れた手つきで器用に指先に絡め取り、すかさず後ろの蕾へ左の人差し指を差し込んでみる。
すべりのよくなった人差し指は簡単に飲み込まれて、
たった何度かの刺激で僕はまた大きく身震いし、あなたを思って熱を吐き出した。
さっきまで、死のうなんて考えていたくせに
今、僕は快楽に身を委ねて生きていることに感謝すらしている。
この極端とも思える正反対の感情を行き来するのが、僕という人間なんだと思う。
結局、普通って一番難しい。
自分とは対極にあるものに人はどうしても惹かれてしまうんだから。
僕にとってあなたという人が、まさにそうなんだ。