酔っ払いのおじさんが
片手に酒の缶を持ちながら
仕事場にいる私に話しかけてきたときに
私は
その人にその缶はしまったほうがいいと
笑顔でアドバイスした
そして
そのいかにも陽気なおじさんは
その後に私に花を一輪買ってきた
そしてたまたま
その何日かあとに
息子の保育園の近くの郵便局にはじめていったときに
そのおじさんにまた会った
すこし話をした
それ以来
たまにコーナーに立ち寄っては
私に話をしてくるようになった
長いときはすこし嫌だったけど
まあ
そんなに悪い人には見えなかった
しかしそんなある日
彼に変化が。
彼は癌の疑いがあるといわれて
検査にこれからいくという
「多分、だいじょうぶでしょ」と
気軽に送り出す
彼も「そうだよなあ」なんて
その後
また結果が出た頃に来る
と言ってまたきた
「10のレベルのうち9の癌だった」と
何もかも投げ捨てたような顔で現れた
書類まで見せてくれた
私は励ましたけど
彼は
「俺は負けないぜ」と
そのときは一生懸命だった
その後日に
彼は酔っ払って現れた
彼は酔うと酒癖が悪かった
今、パチンコ屋で暴れてきた、みたいな事を言っていて
「そんなみっともないこと」と私はあきれた
しかし
彼は私に手紙を差し出した
それは彼が亡き母に
出した封筒の手紙
そこにはあて先人不明で返送の判が押してあった
これをあけて読んでみてくれ
あんたにだから
読んで欲しいと
私はその封筒をあけて中を読ませてもらった
その便箋、一枚一枚、はじっこに はんこが押してあった
つまり刑務所からの手紙だ
彼が服役中に
自分のしたことを反省し母親に心配かけたこと、恥をかかせたこと、がっかりさせたことを謝罪した送った手紙だった
良い文だった
けれども
返送のはんこが押してあったことを見ると
きっと母親には届いていないのだろう
4回、服役した、と彼は言った
私は別に驚きもしなかった
そうか、と思った
そして私に読ませて
なぜか気が済んだのか帰っていった
彼は元○クザだった
ずーっと一人身の一人暮らしの定職なしだった
板前だった、と本人は言っていたけどね
私には気のいいおじさんに過ぎない
しかし
彼がカウンターで私と話しているのを見ていた
顔見知りのおばちゃんは
「あのひと○クザって噂があるけど本当?」と私に聞いてきたりもした
まあたまに着てくるスーツとかコートがやたらと
そっち系でなんだろ?とは思っていたけれど
でもどーでもいいことだった
いまでもどーでもいい
そして
癌が判明してから
彼は一気に老け込んだ
そして
すこし気が動転しているようだった
病院にいって
財布を落としてきた、というのだ
銀行にその紛失手続きに行きたいのだが
財布を落としたものだから
新規口座開設にお金が必要で
1000円、貸してくれないか、必ず明日必ず
返すから、といわれた
私は
1000円だったら、と貸した
ちょっと私に頼むのは違う、とわかっていた
わかっていたけれど
あの状況では私は貸す
そういう人間だ
彼は感謝しながらいなくなった
翌日
私は彼を待ってもいなかったが
夜、「あ、そういえばこなかったな」と気付いた
お金にルーズ
きっとそういうひとなんだ
もしそれだけの人間だったら
私とはこれまでで
金をきっかけとして
縁が切れる
それもいいだろう、
そう思った
彼自身の罪悪感が私と距離をおかせるだろう
彼自身の歴史の中で
同じようなことをきっと
繰り返してきたのかもしれない
そういうことをきっと繰り返してきた
そしてしばらくたったけど
彼はこなかった
別に私もどーでもよかった
本当に
顔見知りのおばさんが通ったときに
たまたまそのおじさんの話になって
「あの人この前、パチンコ屋にいたよ~」
といっていた
そうだろう、と思った
でもパチンコできる元気があってまあいいかね、と思った
お金を返すにこなくてもいい
そう思っていた
あるときに
突然お客さんを接客中に
彼は現れた
頭を下げて
現れた
けれども私は
彼に言った
遮断するような
声のトーンを出したかもしれない
「今、接客中なのでご遠慮願えますか?」
彼は
なにやら
ブツブツと
言いながら
ばつが悪そうにその場を去って
それから現れなかった
あれから1ヶ月以上経とうとしている
私は私の人生の中から
彼を追い払ったのだ
もう必要ないと
ある一時
同じ世界を共有しても
そしてどんなにか
弱さを見せ付けられても
私は
最終的に
切り離すという決断をした
そのことが
できたことを
うれしく思う
きっと彼は癌の治療中だろう
もしかしたら投げ出しているかもね
でも関係ない
考えない
彼は
私の一部なのだろう
だけれども
私の現実にもう必要がなくなったのだ
彼自身
問題を抱える原因が過去にかならずあったんだろう
「そのひと」を見て判断しそうになったときには
その人の生まれた環境からすべて をみるべきだ
または判断せずにいるべきだ
だからこそ
彼を私は判断しない
けれども
私は彼の幼少時代からの傷を舐めてあげようとは思わないのだ
そこまでの付き合いではない
ただの通りすがり同士
でも彼は一線を越えてきた
そして
私に気付かせた
私が気付いたのは
自分に弱みを見せる人、
誰でも彼でも癒して
誰でもコントロールしたいなんて
そんなことはないな、ということ
でも私は
私に出来ることがあればと
言葉を選んで励まさずにいられなかった
私にできること
できたこと
でもできないこともある、ということ
それは私の心に負担がかかることだ
その人と関わることで
自分自身がヘルシーになることこそ
癒しではないかな
彼に関わること
もう私は必要ない
でもいつか
何か段階を超えたときに
彼の存在を違った角度から確認するかもしれない
覚書として