起きたら11時前だった。寝すぎた。
外はやけに明るくて、カーテンを乱暴に開けたら強い日差しがまぶしくて「あぁもう夏なんだなぁ」なんて起き抜けに思う。
ボサボサの髪を整えながら、どうせだし部屋を掃除しようと窓も開けてみると、舞い込んできた風はやっぱり初夏の匂いがした。生暖かくすこし湿っぽい。
少し前に辞めた会社のことを思い出して、窓の外を見つめながらしばらくぼんやりしていた。
数字と向き合いなさいと嫌いな上司に怒られて、どうでも良くなって辞めた。後悔は、しない。
外にはスーツをきちっと着てせわしなく動き回る人々が見えた。通勤ラッシュなんてもう2時間以上前の話なんだから、なんだかとても遠い世界の話のように思える。
いつの間にか世の中に流され流され生きていってしまっていた、そんな自分に嫌気がさした。
辞めない理由もあったけど、辞めたほうがいい理由のが圧倒的に多かった。辞めないでくださいよ、と言ってくれる人もいたけど、むしろ得意げな気持ちで、あなたも早く辞めなさいよと言ったぐらいだった。
なんだか、人生ってやつは。
剥げてきたペディキュアを塗り直そうかな。
夏っぽい色、そうだオレンジとか水色とか、あったかなそんな色。
好きな人と二人で暮らす夢が叶った。
いとも簡単にすんなりと決まったから未だに実感が湧かない。
こじんまりした2DKだけど、駅からそれなりに近いし、お風呂が綺麗で小さい窓から西日が差すからわりと気に入っている。
不安は多い。さっそく夕飯を作るのをサボってしまって、今週は食費の出費が多くなっちゃったからどこかで節約しなきゃいけない。
でも幸せに思う。
鍵を開けるのも、靴を脱ぐのも、ただいまを言うのも、全てが嬉しいにつながる。どんな動作にもいちいち幸せな気持ちが伴う、なんて惚けすぎだろうか。
静かな心安らぐ生活を私は遂に手に入れたのだ。
部屋の掃除もペディキュアも、ゆっくりお風呂に入ってから考えよう。と、浴槽へ向かった。
ぬるま湯のような生活、いつまでも浸っていたい。ま、でも全部、夢なんだけどね。
■明日は金曜日かつ給料日だから、頑張れ!自分!