2023.11.ダイヤモンドオンライン

燃えるEV、最善の消火方法は「何もしない」



消防隊員は、電気自動車(EV)が発火した際の最も確実な対処法を把握しつつある。離れてただ見ていることだ。 

 EVはガソリン車とは燃え方が違う。消防士や研究者によると、EVは長時間燃え、消火が難しく、再燃しやすい。  

米テネシー州フランクリンの消防隊は9月、燃えるEVを初めて目の当たりにした。

日産自動車の北米本社の外で、「リーフ」が充電中に発火した。

アンディ・キング消防署長によると、消防隊は数時間かけて4万5000ガロン(約17万リットル)を放水した。

通常のガソリン車の火災では500~1000ガロンでいいという。


参考


電気自動車(EV)の火災事故が世界各地で相次いでいる。衝突事故に伴う炎上など原因はさまざまだが、共通するのが事故処理の難しさ。一度鎮火してもバッテリーの発熱によって再燃してしまうのだ。全米防火協会(NFPA)や米国家運輸安全委員会(NTSB)の調査結果から実態に迫る。

 2021年4月17日夜、米国テキサス州ヒューストン北部で米Tesla(テスラ)のEV「モデルS」が木に衝突して炎上し、2人が死亡した(図1*1。21年8月14日にはドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン、VW)のEV「ID.3」がオランダで充電後に発火*2。米GMの「Bolt EV」も充電中に電池から発火した事例が複数あり、GMは3回にわたってリコール(回収・無償修理)を発表した*3

1 地元警察の発表では、事故時の運転席が無人だったことから、事故直後はテスラの運転支援システム「オートパイロット」との関連が注目を集めた。ただし、米国家運輸安全委員会(NTSB)は21年5月10日、事故現場で状況を再現した結果、左右の走行方向を制御する「自動操舵(そうだ)機能(Autosteer)」は作動不可能だったとする初期調査結果を公表した。オートパイロットを使うには自動操舵機能と、前方車との距離を制御する「交通量感知型クルーズコントロール機能(Traffic Aware Cruise Control)」の両方を作動させる必要がある。
*2 ID.3の電池は韓国LG Energy Solution(LGエナジーソリューション)製とみられる。
*3 Bolt EVの全モデル、合計約14万台がリコール対象となっている。電池はLGエナジーソリューション製。


これらの事故で明らかになったのが、EVの車両火災の危険性の高さ、特に消火の難しさだ。NFPAとNTSBの資料を基に、EV火災事故の詳細について解説する1~4)

消したはずの火が何度も復活

 冒頭で紹介したテスラ車の火災事故の消火活動は、いつもと勝手が違ったという。テスラの消火に使った水の量は一般的な車両火災とは比べものにならないほど多く、具体的には約2万8000ガロン(10万5991L)もの水が必要だったのだ。山火事を消すのに使う世界最大級の消防用航空機で運べる水が約2万ガロン(7万5708L)なので、その量の多さを推し量れる。

 消火に当たった消防署の署長は現地メディアのインタビューに対して「我々が経験したことのない事故現場だった」と語った。火を消すまでに要した時間は約4時間。「通常の車両火災は消防隊が到着すると、数分で鎮火できるものだ」(同)と事故の特殊性を指摘する。

 事故の経過を詳しくみると、車両はずっと火だるま状態だったわけではない。実は、消防隊員は現場に到着した数分後の21時39分に一度鎮火した(表)。しかしその後、一度消したはずの火が復活(再燃)し、22時には再燃したバッテリーパックに水をかけて冷却を始めなければならなかった。