〝宛て所に尋ねあたりません〟
自分なりに
かなり頑張って発送したはずの
書留小包でしたが
郵便局の赤いスタンプは
冷静にメッセージを
伝えていました。
わたしの気力は
一気に萎え果てました。
事務局で教えてもらった
電話番号にも
ダメ元でかけてみましたが
〝おかけになった電話番号は
現在使われておりません・・・〟
やはりダメでした。
思いつく限りの人に
聞き尽くしたし
最終的には
公式(事務局)で教えてもらった
住所と電話番号です。
これ以上
どこを調べれば
いいというのでしょう。
不幸中の幸いだったのは
貸金庫を
解約していなかったことです。
半年分の利用料を
前払いしていましたから。
そんなこんなで
Rolexは
誰のものでもない
宙に浮いた状態のまま
貸金庫に戻りました。
文章で読むと
時間の経過がわかりにくいと
思いますが
ここに至るまでに
既に1ヶ月ほどの
時間が経過しています。
出鼻をくじかれた形で
貸金庫に戻ったRolexが
再び日の目を見るのは
更に半年ほどの時間が
経った後でした。
無責任すぎたと猛省していますが
言い訳も聞いてください。
A氏に会ったのとちょうど同じ頃
わたしは
研修先が変わりました。
ずっと順番待ちをしていた
心臓外科への異動です。
これまでと全く異なる診療科への
異動は
貴重な経験であるとともに
大きな負担を伴います。
診たことのない疾患
最新の治療技術
触ったこともない検査機器など
勉強することが山積みです。
更に
医局メンバー
病棟、外来スタッフ
OP室スタッフの
名前と顔をなる早で覚え
いち早く人間関係を構築しなければ
明日の仕事に差し障りが出ます。
自分で希望した事とは言え
診療科の異動は
研修医にとって
まぁまぁの試練なのです。
繁忙を極めたわたしは
寮に戻っても
ただ眠るだけの毎日を
送っていました。
そんな中
久しぶりの休日のこと。
たまりにたまった郵便物を
まとめて開封していた時
貸金庫の利用料を
引き落としたという内容の
銀行からの通知を発見したのです。
ひと月近く前の消印でした。
眠くてボーッとしていた頭が
一気に現実に
引き戻されました。
利用料の引き落としは半年毎です。
つまりわたしは
高価な預かり物を半年もの間
放置したばかりでなく
その事に
1ヶ月も気付かずにいたのです。
中身が中身だけにネコババ
いえこれは
立派な横領です。