パンデミックの前


弟子の異変を察知して

その日のうちに

滋賀から飛んできた

スーパーマン。


そのスーパーマンを

平手で連打して

痛めつけたわたし。


話を一通り聞き終わり

わたしの涙も枯れた頃

彼は唐突に

「腹減ったな」と言いました。


よく考えたら

ギャン泣き+平手連打。

まぁまぁの運動です。

わたしも

お腹が空いていることに

気が付きました。


食事は楽しいひと時でした。

バンド時代の苦労話や

〝隠居生活〟での

新しい発見など

彼の話は楽しくて

久しぶりに笑いました。


長い付き合いの中で

一緒にご飯を食べたり

お酒を飲んだりしたことは

これまでありませんでした。


わたしなんかのために

滋賀からから飛んできた

スーパーマン。


わたしの乱心を

身を挺して受け止めた

スーパーマン。


普段ならとっくに

眠っているだろう時間まで

わたしを元気付けようと

喋りまくっている

スーパーマン。


この時わたしは彼を

初めて愛おしく感じました。


彼は

わたしを家まで送ると

言い張りましたが

ほろ酔いの75歳の方が

よっぽど心配だったので

宿泊先のホテルまで

タクシーで送り届けました。


タクシーを降りる時彼は

「いつでも連絡しろよ」

と言い残しました。


2020年

パンデミック直前のことです。