スーパーマンだったの?


髪と髭が真っ白な後期高齢者と

瞼を真っ赤に泣き腫らした

初老のわたしは

懐かしいスタジオの前で

10年ぶりの再会を果たしました。


かつて月に2回

ギターを練習したその場所は

10年前と

何も変わっていませんでした。


変わったのはわたし達だけ。


彼はすっかり〝高齢者〟が板につき

白い髪と白い髭と大きな老眼鏡が

よく似合っていました。


「おい、大丈夫か?」

という当然の問いに

答えることもせず

わたしは無言で

通い慣れたスタジオへ入りました。

言葉を発した途端に

泣き崩れそうだったからです。


部屋のドアが閉まると同時に

これまで堪えていた涙が

じわじわと滲み始め

やがて流れ出しました。


泣きながらわたしは

3ヶ月の間

吐き出すことのできなかった

悲しみや絶望、不安、恨みつらみ

その他の

あらゆるマイナス感情を

A氏にぶつけました、、、、


いえ、正確には

彼の胸の辺りを

平手で何度も何度も叩きながら

支離滅裂な日本語を

吐き出しました。


(恥ずかしさと申し訳なさで

思い出したくもありませんが)

 

わたしが一通り吐き出し

且つ

叩き疲れたことを見極めると

乱れたシャツを整えながら

彼は口を開きました。


「気が済んだ?」


この一言が

何故かとても可笑しくて

取り乱した自分がとても恥ずかしくて

わたしは久しぶりに

笑ってしまいました。


その後わたし達は

会わなかった時間を埋めるように

お互いのことを

少しずつ話しました。


A氏は

生まれ故郷の滋賀に戻り

音楽活動からは

一切身を引いたとのことでした。


わたしがその事実を

理解して驚くまでには

やや時間がかかりました。

「もしかして滋賀から来たの?」


電話の先で取り乱すわたしを

ただ事ではないと察して

「今行くから」と伝えた直後に

スタジオを予約し

その日のうちに

東京へ来てくれたのでした。


スーパーマンなの?


わたしが再び号泣したことは

言うまでもありません。