次に出会う時は、もう少しだけ強く生まれてくるから。



水彩



世界が滲んでいた。水彩画みたいな淡い色。ゆらゆらと揺らめく水面にも似ている。

空気になる、ってこういうことなのかもしれない。

あたしの体は今、何もかもを消化して浮いている。

思い悩んでいたことすら、全てこの雨に溶けて消えてしまった。

優しく降り注ぐ雨は、全身を濡らしていく。肌を滑る水滴は、気まずそうにあたしに触れるカミサマみたいだ。



あたしは、あなたにはなれないから。

魂に種類とか、ラベルとかがあるのかどうかはわからない。でも、別の入れ物に入れたら、もうそれは別の誰かになる。

あたしは、あなたとは違うから。

目に見えないものを信じたり出来たら、どんなに楽なんだろう。その不思議な目を、一度でいいから持ってみたかった。

どんなに手を伸ばしても、そこにあるものは、見えないあたしには届かない。



息を少しだけ、吐いた。白い白い息が、ふぅっと丸く出て、消えた。

息を少しだけ、長く吐いた。とても寒い日。白い白い息は、細長く伸びて消えた。



次に出会う時は、もう少しだけ強く生まれてくるから。

空を見上げて、目を閉じた。雨は変わらず優しい。

さよならは言えなかった。だってあなたは悪くないもの。弱かった自分の、逃げた結末。

あなたはあたしを探しているだろうか。そうであるなら、どうかあたしのことを忘れてほしい。

あなたの細い首を、あたしの想いで潰すわけにはいかないの。

どうか、どうか。



あなたの痛みにしかなれなかったあたしを許してね。

もう出会うことはないだろうけど、もしも、もしも。



また再び巡り逢えたら、その時は―――。




そっと歩き出した。

雨は、止んでいた。

涙のあとを残して、止んでいた。



FIN