「百の扉」2012/12/1 | 空色ノートのブログ

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こんにちは、空色ノートと申します。このブログでは日記や詩を中心に、たまに旅行記も書いています。
映画、音楽、写真、旅行、漫画が好きです。美術館、博物館、神社、お寺など、時々出かけています。毎週の楽しみは、私の愛した歴代ゲゲゲ、薬屋のひとりごと。



ある夏の日のことだった

男が山道に差しかかったところ 若い娘が倒れていた

男は娘を木陰に運び 水を飲ませてやった

しばらくすると娘は顔を上げ 懐から小さな鍵を取り出した


助けていただきありがとうございました お礼を致しましょう

この鍵を使えば 百の扉を開けることができます

ご覧になったうちから お好きなものをひとつ差し上げましょう

九十九までは 先に見た扉のどこへでも戻れます

ただ百を開けてしまったら もう前の扉へは戻れません お気をつけ下さい


気がつくと男は 百の扉に囲まれていた

さてはあの娘 あやかしだったかと思ったが 扉を開けないことには 先へも後へも進めない

恐る恐る ひとつめの扉を開けた


ひとつめの扉の向こうは 甘い春だった

花の匂いがふうわりと漂い 楽しそうな小鳥のさえずりが聞こえてくる

男は心底ほっとした そして ほかの扉も覗いてみたいという気持ちが ふつふつと沸き上がってきた


美しいものを見れば さらに美しいものを求めて

恐ろしいものを見れば 次こそは美しいものをと

男は扉を開けた 開けてとうとう最後になった


男は娘の言葉を思い出した それでも扉の中が気になってしょうがない

素晴らしい宝物が隠されているかもしれないと 思い切って鍵を開けた


百番目の扉の向こうは 真っ白だった

まばゆい光であふれ 何があるのか見当もつかない

男は誘われるように 扉の中へと入っていった



『百の扉は宝の扉 白い娘の宝の扉

 どこでやめるか どこまで見るか』






《あとがき》

この後、男はどうなったのでしょうね…。
最後の扉に閉じ込められて、娘の新しい宝物になったのか。扉の向こうはあやかしの世界で、踏み込んでしまった男は、人ではないものになったのか。それとも、真っ白な光に呑まれて、影も形もなくなったのか。誰にも分かりません。