「カズ君、帰ろっ!」
「もうそんな時間か~今日は疲れたぜ。」
携帯を見ると6時を回っていた。
「今日はカズ君が夕飯作る日だよ!」
「げっ!そうだった…よし、今日は外食だ!体育祭の後だし!!」
「もう!カズ君ってば~」
今日は珍しく外食を認めてくれた。彩希も疲れてんだな。
「和哉、私、忘れ物しちゃったみたいだから先に帰っててくれる?」
「忘れ物?」
というより、今俺のことを和哉って呼んだか?
「学校まだすぐそこだし、俺も行く。」
「1人で行ける。だから早く帰って。」
間違いないな。この辺りに魔法使いか何かがいる。
「やりあうつもりか?」
「…そうなる。」
「じゃあ俺もいる。」
「はぁ…聞かないのは分かってたけど。」
今日はどんなやつが来るのか…
「〝硬〟」
「?」
彩希菜の左腕に金属が当たった。というよりは硬くした左腕で攻撃を止めたようだった。
「流石は噂のネクストだな。」
声の主は街路樹の上か、その辺りから彩希菜に攻撃したみたいだった。武器は…出刃包丁っていうのか?あの四角い包丁を大きくしたような物。剣よりは鉈に近いかもしれない。
「俺の攻撃を見破るってことは強者ってことだな。久しぶりに気合い入れてかかるぜ!俺は暗殺部隊所属の、コードネーム、ゲン。これがお前を地獄に導く者の名前だ。」
暗殺部隊?敵の組織にはそんな物騒な連中がいるっていうのか?
「攻撃魔法使いLv.12…排除まで推定79秒…」
Lv.12ってことはそこまで強い敵じゃないのか?
「早速行くぜ!〝斬〟!」
「〝楯〟」
彩希菜は実態のある楯で攻撃を防いだ。…ん?一撃しかくらってないはずなのに3本分傷ついてるぞ?
「どんどん行くぜ!!」
…やっぱりだ。一回で3撃分傷ついてる。
「〝剣〟」
それに気づいたか気づいてないか分からないけど、守るだけじゃなくて反撃に出るみたいだ。
というか、そもそも何で3回分ダメージがいくんだ?魔法で何かやってるから常識が通じないのは分かってる。でも例えば2本の刀身だけ召喚してるとかならまだ納得がいく。でも見たところそんなものは出てない…
「そんな細い剣で勝てると思ってんのか!?」
ゲンの剣が縦に降り下ろされた。彩希菜はそれに対応して剣を横に向けて防いだ。やっぱり金属音は同時に3つ鳴った。
「へし折ってやるぜ!」
実際、彩希菜の剣にはヒビが入り始めている。
「〝激〟」
彩希菜は剣を勢いよく上げ、ゲンの剣を振り払った。続いて一撃。確かさっきの魔法の後は攻撃が強くなるやつだ。ということは…
「や…やられた…」
ゲンは消滅した。なんだ、あっけなかったな。
それにしても、やっぱり彩希菜は圧倒的だ。俺も怖くなるくらいにな。
彩希菜は好き放題やって、いつも通り倒れた。今日は熱を出さないパターンみたいだ。どっちにしろ、帰るのは一苦労だけどな。
ガチャン
…あれ?鍵を開けたつもりが鍵がしまったぞ?閉め忘れたか?
改めて鍵を開ける。
「ただいま~」
誰がいるわけでもないけど、時々ついいっちゃうんだよな。
「おかえりー」
!?
誰!?
って落ち着け。この声は…というか今ここにいて「おかえりー」って言う人間はたった1人しかいない!
「か、母さん…なんでここに?」
「なんでって、ここが私の家だからだよ。」
ごもっともな回答だ。はぁ…聞いてねぇぞ。
「ん?彩希ちゃん体調でも悪いの!?」
しまった!!
「な、なんでもない。疲れただけだから!」
「本当に?」
「ほ、本当だって!!」
「あんた、嘘つくと左手の人差し指を中指に絡ませるわよね?」
「!?」
「引っ掛かったわね。そんな癖ないわよ。多分。まぁ深くは聞かないけど…最近、何か変わったことあった?」
変わったことといえば、彩希が魔法使いだということを知ってしまったことだ。
「それも彩希ちゃん関連の事で。」
まさか…母さん、なにか知ってる…?
「な…何にもないよ。とりあえず彩希を寝かせてこないと…
「そうね。いつまでも背負ってるのもあれだしね。」
…そういえば母さんは彩希のお母さんと昔からの親友だって話だ。彩希を引き取ったのもそれが理由のはず。この際彩希を引き取った理由がどんなものだろうと関係ない。
問題は昔からの親友ってことだ。もしかしたら、魔法の事について何か知っているかもしれない。
もちろん、ホントならメモリーウォッシュって魔法で記憶を消されるはずなんだけど、中井先生が俺の事を特殊体質だって言ってた以上、母さんがそうじゃないとは言い切れない。
ちょっと待てよ、仮に母さんが特殊体質でなくても、魔法使いなら説明がつく。俺が魔法使いじゃなかったからといって母さんが違うとは限らない…
ならなんで母さんは彩希を引き取った?
魔法使いには組織の手先と裏切り者の2パターンがいる。仮に手先だとしたら、目的はもちろん監視ってとこだろう。逆に裏切り者なら組織の標的にならないほうがおかしい…
つまり、最悪の場合、彩希は常に監視されていて、いつ殺されてもおかしくない状態に立たされているってことになる。
こうなったら試しに当たって砕けてみるか…
「彩希ちゃんはまだ寝てる?」
「ぐっすりと。…母さん、彩希を引き取った本当の理由って何?」
「本当の理由?」
「例えば…彩希の家系に関係することとか…」
ここまで言ったらもう引き返せない。でも、俺は元々逃げ出せない状況にいるんだから大して問題はない。
「そこまで知ってるってことは…もしかして、彩希ちゃん、使ったの?」
「何を?」
「魔法。」
やっぱり…やっぱりだ…母さんは何か知ってる…
「説明必要?」
「大体の事は分かってるつもりだけど…母さんも魔法使い?」
「私は違うわよ。」
なんだ、ちょっと安心したぜ…
「でも、彩希ちゃんの両親は魔法使いだった。ネクストって知ってる?」
「知ってる。彩希もそうらしいし。」
「なんだ、じゃあ大して説明する必要もないわね。魔法使いの風習については?」
「それも知ってる。」
「そう…前にも言ったけど、私と彩希ちゃんのお母さんは幼馴染みでね、幼稚園は違ったけど近所に住んでて、よく遊んでたの。それ以来小学校、中学校、高校、大学まで一緒でね。…ある時、いきなり大学に来なくなったの。」
「なんで?」
「20歳の誕生日を過ぎたから。私もあの子もその時に初めて魔法使いっていう存在を知ったわ。…いや、本当はちょっと違うんだけど…」
ん?もっと早く魔法使いがいるって知ってたってことか?
「彩希ちゃんのお母さんも彩希ちゃんそっくりでね、というよりは彩希ちゃんがお母さんそっくりに育ったんだよね。優しくていい子なんだけど、どこかヒステリックになっちゃうというか…とにかくネガティブに考えちゃう癖みたいなのがあってね。自分が魔法使いで、戦ったりしないといけないって聞いて、落ち込んだのか悲しくなったのか、家に引きこもっちゃったんだよ。」
…まるで去年、自分のせいで両親と祖父母が死んだ、って思い込んでた彩希だな。
「1ヶ月も音沙汰無しに引きこもるから、家に行ったのよ。本当はそんなことしない子だって分かってたから。そこで、根掘り葉掘り聞いちゃったってわけよ。もちろんそんなこと信じられなかった。でもね、その時偶然、家の前で猫が車に轢かれちゃってね、私達が外に出たときはまだ生きてた。それでどうしたと思う?」
「魔法で怪我を治した?」
「正解。流石に夢かと思ったわ。」
俺もそうだったしな。
「でもまあ当然夢じゃなかったし、そのあと何回も魔法ってものを見た。あの子も学校に来るようになって2人で卒業。それからあんまり経たない内に私達はそれぞれ結婚してあんたたちが生まれたってわけ。」
親子二代で似たような境遇ってわけか…
「彩希ちゃん、魔法について何か言ってた?」
「何も言ってない。本人もまだ知らないんだ。」
「へ?知らないのに使ったの?」
「使っている間のこととその前後、襲われたりした時のことを覚えてないみたいで、だから俺も何も伝えてない。」
「そう。じゃあ二十歳になるまでは何も伝えないでおくわ。」
「母さんは組織の事とかも知ってるの?」
「組織ってファウスツのこと?」
「ファウスツ?」
「ネクスト以外の魔法使いはファウストって呼ばれることもあって、組織もファウスツって呼ばれたりするの。」
単に複数系にしただけだよな…まぁ正式名称じゃないみたいだけど。
「詳しくはよく知らないけど、組織の中にもいくつかの部類があって、中には政界とかあらゆる方面で監視や偵察をしている連中もいるらしいわ。もちろん、普通に働いている人もいるみたいだけど。」
やっぱり国家転覆級の何かを企んでいる、ってことだな。あと、さっきのやつが言ってた暗殺部隊ってやつの他にも色々あるみたいだ。
「とにかく、あんまり首は突っ込まないことね。それで、彩希ちゃんにもできるだけ首を突っ込ませない。深入りしすぎると、最後に泣くのは彩希ちゃんなんだからさ。…もう何人か殺しちゃったんでしょ?」
彩希と戦ったやつらのほとんどは最後にその場から消滅した。もしあれの意味が死ぬのと同じだとするなら…
「…多分。」
「なら絶対に思い出させないようにしなさいよ。それと、できるだけ魔法使い同士の争いの場にいない方がいいわよ。」
「なんで?」
「今までの話を聞いている限り、何回か戦いも見てきたみたいだけど…多分それはまだまだ序の口。魔法使いの本当の戦いはもっとずっと酷いわよ。」
「母さんはそれを見たことがあるってこと?」
「一回だけね…」
母さんの急に表情が曇った。
「ファウスツにはね、組織っていうくらいだから上の人間がいるのよ。ボスが1人と、その下に幹部が4人。その5人は圧倒的な力を持ってる、と言われているわ。」
そういえばシーナもボスがどうちゃら言ってたっけ。
「私も理由とかは詳しくは知らないけど、その5人の内の1人と戦っている場に鉢合わせしちゃってね。」
「彩希のお母さんは裏切り者だったの?」
「さぁね…逆に裏切り者を殺そうとしていたのかもしれない。そうは見えなかったけどね。…どっちにしても、あの子が天才って呼ばれてたのだけは間違いない。」
天才…か。彩希菜のあの強さも天才だからなのかな。
「その戦いっていうのの話、聞いてみたい?」
「そこまで言われたら聞くしかないし。」
母さんは深いため息をついた。本当は言いたくないのか、それともあまりに酷い記憶で思い出したくもないのか…
「あれはまだ大学を卒業するちょっと前だったよ。2人で就職先も決まって、あとは卒業するだけ、あんたが高校に受かったたあとに浮かれてたのと似たような感じでね。…あの時はたまたまあの子の…葉瑠菜の家の近くを通ったんだよね。なんだったかは忘れちゃったけど、とにかく別の用事があった。」
葉瑠菜…前に彩希から聞いたことあるな。彩希のお母さんの名前だ。彩希菜の「菜」の字はお母さんからもらった、って何度か言ってたっけ。
「そうしたら近く、それもすぐ隣の道路で爆発があったんだ。大通りじゃないけど、人がそこそこ通るくらいの道。野次馬精神とでもいうのかな…私はすぐにそっちにいった。そうしたら街路樹の一本が根本からぺっきり折れててさ。多分それが爆発の正体。
…もう想像はついてると思うけど、そこには葉瑠菜と敵がいた。そろそろオッサンって呼ばれるくらいの歳に見えたよ。で、その相手を葉瑠菜がにらんでてさ。
あの子、彩希ちゃんみたいに優しい子だったからあんな目を見たのは最初で最後だった。
「もうそんな時間か~今日は疲れたぜ。」
携帯を見ると6時を回っていた。
「今日はカズ君が夕飯作る日だよ!」
「げっ!そうだった…よし、今日は外食だ!体育祭の後だし!!」
「もう!カズ君ってば~」
今日は珍しく外食を認めてくれた。彩希も疲れてんだな。
「和哉、私、忘れ物しちゃったみたいだから先に帰っててくれる?」
「忘れ物?」
というより、今俺のことを和哉って呼んだか?
「学校まだすぐそこだし、俺も行く。」
「1人で行ける。だから早く帰って。」
間違いないな。この辺りに魔法使いか何かがいる。
「やりあうつもりか?」
「…そうなる。」
「じゃあ俺もいる。」
「はぁ…聞かないのは分かってたけど。」
今日はどんなやつが来るのか…
「〝硬〟」
「?」
彩希菜の左腕に金属が当たった。というよりは硬くした左腕で攻撃を止めたようだった。
「流石は噂のネクストだな。」
声の主は街路樹の上か、その辺りから彩希菜に攻撃したみたいだった。武器は…出刃包丁っていうのか?あの四角い包丁を大きくしたような物。剣よりは鉈に近いかもしれない。
「俺の攻撃を見破るってことは強者ってことだな。久しぶりに気合い入れてかかるぜ!俺は暗殺部隊所属の、コードネーム、ゲン。これがお前を地獄に導く者の名前だ。」
暗殺部隊?敵の組織にはそんな物騒な連中がいるっていうのか?
「攻撃魔法使いLv.12…排除まで推定79秒…」
Lv.12ってことはそこまで強い敵じゃないのか?
「早速行くぜ!〝斬〟!」
「〝楯〟」
彩希菜は実態のある楯で攻撃を防いだ。…ん?一撃しかくらってないはずなのに3本分傷ついてるぞ?
「どんどん行くぜ!!」
…やっぱりだ。一回で3撃分傷ついてる。
「〝剣〟」
それに気づいたか気づいてないか分からないけど、守るだけじゃなくて反撃に出るみたいだ。
というか、そもそも何で3回分ダメージがいくんだ?魔法で何かやってるから常識が通じないのは分かってる。でも例えば2本の刀身だけ召喚してるとかならまだ納得がいく。でも見たところそんなものは出てない…
「そんな細い剣で勝てると思ってんのか!?」
ゲンの剣が縦に降り下ろされた。彩希菜はそれに対応して剣を横に向けて防いだ。やっぱり金属音は同時に3つ鳴った。
「へし折ってやるぜ!」
実際、彩希菜の剣にはヒビが入り始めている。
「〝激〟」
彩希菜は剣を勢いよく上げ、ゲンの剣を振り払った。続いて一撃。確かさっきの魔法の後は攻撃が強くなるやつだ。ということは…
「や…やられた…」
ゲンは消滅した。なんだ、あっけなかったな。
それにしても、やっぱり彩希菜は圧倒的だ。俺も怖くなるくらいにな。
彩希菜は好き放題やって、いつも通り倒れた。今日は熱を出さないパターンみたいだ。どっちにしろ、帰るのは一苦労だけどな。
ガチャン
…あれ?鍵を開けたつもりが鍵がしまったぞ?閉め忘れたか?
改めて鍵を開ける。
「ただいま~」
誰がいるわけでもないけど、時々ついいっちゃうんだよな。
「おかえりー」
!?
誰!?
って落ち着け。この声は…というか今ここにいて「おかえりー」って言う人間はたった1人しかいない!
「か、母さん…なんでここに?」
「なんでって、ここが私の家だからだよ。」
ごもっともな回答だ。はぁ…聞いてねぇぞ。
「ん?彩希ちゃん体調でも悪いの!?」
しまった!!
「な、なんでもない。疲れただけだから!」
「本当に?」
「ほ、本当だって!!」
「あんた、嘘つくと左手の人差し指を中指に絡ませるわよね?」
「!?」
「引っ掛かったわね。そんな癖ないわよ。多分。まぁ深くは聞かないけど…最近、何か変わったことあった?」
変わったことといえば、彩希が魔法使いだということを知ってしまったことだ。
「それも彩希ちゃん関連の事で。」
まさか…母さん、なにか知ってる…?
「な…何にもないよ。とりあえず彩希を寝かせてこないと…
「そうね。いつまでも背負ってるのもあれだしね。」
…そういえば母さんは彩希のお母さんと昔からの親友だって話だ。彩希を引き取ったのもそれが理由のはず。この際彩希を引き取った理由がどんなものだろうと関係ない。
問題は昔からの親友ってことだ。もしかしたら、魔法の事について何か知っているかもしれない。
もちろん、ホントならメモリーウォッシュって魔法で記憶を消されるはずなんだけど、中井先生が俺の事を特殊体質だって言ってた以上、母さんがそうじゃないとは言い切れない。
ちょっと待てよ、仮に母さんが特殊体質でなくても、魔法使いなら説明がつく。俺が魔法使いじゃなかったからといって母さんが違うとは限らない…
ならなんで母さんは彩希を引き取った?
魔法使いには組織の手先と裏切り者の2パターンがいる。仮に手先だとしたら、目的はもちろん監視ってとこだろう。逆に裏切り者なら組織の標的にならないほうがおかしい…
つまり、最悪の場合、彩希は常に監視されていて、いつ殺されてもおかしくない状態に立たされているってことになる。
こうなったら試しに当たって砕けてみるか…
「彩希ちゃんはまだ寝てる?」
「ぐっすりと。…母さん、彩希を引き取った本当の理由って何?」
「本当の理由?」
「例えば…彩希の家系に関係することとか…」
ここまで言ったらもう引き返せない。でも、俺は元々逃げ出せない状況にいるんだから大して問題はない。
「そこまで知ってるってことは…もしかして、彩希ちゃん、使ったの?」
「何を?」
「魔法。」
やっぱり…やっぱりだ…母さんは何か知ってる…
「説明必要?」
「大体の事は分かってるつもりだけど…母さんも魔法使い?」
「私は違うわよ。」
なんだ、ちょっと安心したぜ…
「でも、彩希ちゃんの両親は魔法使いだった。ネクストって知ってる?」
「知ってる。彩希もそうらしいし。」
「なんだ、じゃあ大して説明する必要もないわね。魔法使いの風習については?」
「それも知ってる。」
「そう…前にも言ったけど、私と彩希ちゃんのお母さんは幼馴染みでね、幼稚園は違ったけど近所に住んでて、よく遊んでたの。それ以来小学校、中学校、高校、大学まで一緒でね。…ある時、いきなり大学に来なくなったの。」
「なんで?」
「20歳の誕生日を過ぎたから。私もあの子もその時に初めて魔法使いっていう存在を知ったわ。…いや、本当はちょっと違うんだけど…」
ん?もっと早く魔法使いがいるって知ってたってことか?
「彩希ちゃんのお母さんも彩希ちゃんそっくりでね、というよりは彩希ちゃんがお母さんそっくりに育ったんだよね。優しくていい子なんだけど、どこかヒステリックになっちゃうというか…とにかくネガティブに考えちゃう癖みたいなのがあってね。自分が魔法使いで、戦ったりしないといけないって聞いて、落ち込んだのか悲しくなったのか、家に引きこもっちゃったんだよ。」
…まるで去年、自分のせいで両親と祖父母が死んだ、って思い込んでた彩希だな。
「1ヶ月も音沙汰無しに引きこもるから、家に行ったのよ。本当はそんなことしない子だって分かってたから。そこで、根掘り葉掘り聞いちゃったってわけよ。もちろんそんなこと信じられなかった。でもね、その時偶然、家の前で猫が車に轢かれちゃってね、私達が外に出たときはまだ生きてた。それでどうしたと思う?」
「魔法で怪我を治した?」
「正解。流石に夢かと思ったわ。」
俺もそうだったしな。
「でもまあ当然夢じゃなかったし、そのあと何回も魔法ってものを見た。あの子も学校に来るようになって2人で卒業。それからあんまり経たない内に私達はそれぞれ結婚してあんたたちが生まれたってわけ。」
親子二代で似たような境遇ってわけか…
「彩希ちゃん、魔法について何か言ってた?」
「何も言ってない。本人もまだ知らないんだ。」
「へ?知らないのに使ったの?」
「使っている間のこととその前後、襲われたりした時のことを覚えてないみたいで、だから俺も何も伝えてない。」
「そう。じゃあ二十歳になるまでは何も伝えないでおくわ。」
「母さんは組織の事とかも知ってるの?」
「組織ってファウスツのこと?」
「ファウスツ?」
「ネクスト以外の魔法使いはファウストって呼ばれることもあって、組織もファウスツって呼ばれたりするの。」
単に複数系にしただけだよな…まぁ正式名称じゃないみたいだけど。
「詳しくはよく知らないけど、組織の中にもいくつかの部類があって、中には政界とかあらゆる方面で監視や偵察をしている連中もいるらしいわ。もちろん、普通に働いている人もいるみたいだけど。」
やっぱり国家転覆級の何かを企んでいる、ってことだな。あと、さっきのやつが言ってた暗殺部隊ってやつの他にも色々あるみたいだ。
「とにかく、あんまり首は突っ込まないことね。それで、彩希ちゃんにもできるだけ首を突っ込ませない。深入りしすぎると、最後に泣くのは彩希ちゃんなんだからさ。…もう何人か殺しちゃったんでしょ?」
彩希と戦ったやつらのほとんどは最後にその場から消滅した。もしあれの意味が死ぬのと同じだとするなら…
「…多分。」
「なら絶対に思い出させないようにしなさいよ。それと、できるだけ魔法使い同士の争いの場にいない方がいいわよ。」
「なんで?」
「今までの話を聞いている限り、何回か戦いも見てきたみたいだけど…多分それはまだまだ序の口。魔法使いの本当の戦いはもっとずっと酷いわよ。」
「母さんはそれを見たことがあるってこと?」
「一回だけね…」
母さんの急に表情が曇った。
「ファウスツにはね、組織っていうくらいだから上の人間がいるのよ。ボスが1人と、その下に幹部が4人。その5人は圧倒的な力を持ってる、と言われているわ。」
そういえばシーナもボスがどうちゃら言ってたっけ。
「私も理由とかは詳しくは知らないけど、その5人の内の1人と戦っている場に鉢合わせしちゃってね。」
「彩希のお母さんは裏切り者だったの?」
「さぁね…逆に裏切り者を殺そうとしていたのかもしれない。そうは見えなかったけどね。…どっちにしても、あの子が天才って呼ばれてたのだけは間違いない。」
天才…か。彩希菜のあの強さも天才だからなのかな。
「その戦いっていうのの話、聞いてみたい?」
「そこまで言われたら聞くしかないし。」
母さんは深いため息をついた。本当は言いたくないのか、それともあまりに酷い記憶で思い出したくもないのか…
「あれはまだ大学を卒業するちょっと前だったよ。2人で就職先も決まって、あとは卒業するだけ、あんたが高校に受かったたあとに浮かれてたのと似たような感じでね。…あの時はたまたまあの子の…葉瑠菜の家の近くを通ったんだよね。なんだったかは忘れちゃったけど、とにかく別の用事があった。」
葉瑠菜…前に彩希から聞いたことあるな。彩希のお母さんの名前だ。彩希菜の「菜」の字はお母さんからもらった、って何度か言ってたっけ。
「そうしたら近く、それもすぐ隣の道路で爆発があったんだ。大通りじゃないけど、人がそこそこ通るくらいの道。野次馬精神とでもいうのかな…私はすぐにそっちにいった。そうしたら街路樹の一本が根本からぺっきり折れててさ。多分それが爆発の正体。
…もう想像はついてると思うけど、そこには葉瑠菜と敵がいた。そろそろオッサンって呼ばれるくらいの歳に見えたよ。で、その相手を葉瑠菜がにらんでてさ。
あの子、彩希ちゃんみたいに優しい子だったからあんな目を見たのは最初で最後だった。