『亡霊はまた蘇る』
“S.S”とイニシャルのはいった赤いマグカップ。僕の世界を崩壊させた、あの人の忘れ物。思えば彼は頻繁に僕の部屋に来ていたが、これ以外に私物を持ち込むことはなかった。
意外だった。この部屋にはもっと彼のものがあるような気がしていたのだ。
(そうでなければ彼に浸食された僕の内と釣り合いが取れない)
ぽつんとひとつ残されたカップ。見るたびに重い出されるあたたかい記憶は今となっては苦々しいものでしかない。けれどもそれは壊してしまえる程軽々しい物でも無かった。だから、
忘れるために
(そして忘れないために)
桜の木の下に埋めよう。
出来るだけ深い穴を掘って、土底に静かにそれを置いて、やさしく土をかけて、白い花を添える。
「おにいさん、なにをしてるの?」
振り向くと近所の子だろうか、白いワンピースの少女が立っていた。彼女の黒い瞳と目が合う。
「ああ…、お墓を作っているんだ。」
彼女ははっと目を見開いた後、とても悲しそうな顔をした。
「…わたしもいっしょにおいのりする。てんごくにいけるようにおいのりする。
」
「ありがとう。」
手を合わせる姿はさながら天使だ。まだ絶望を知らない、かわいらしい天使。
僕にもこんな頃があったのだろうけれど。
もうあの頃の僕には戻れない。
僕も手を合わせて一心に祈る。
(この下には僕の恋心が埋まっている)
この暗い土のなかで、安らかに眠るように祈るのだ。
“S.S”とイニシャルのはいった赤いマグカップ。僕の世界を崩壊させた、あの人の忘れ物。思えば彼は頻繁に僕の部屋に来ていたが、これ以外に私物を持ち込むことはなかった。
意外だった。この部屋にはもっと彼のものがあるような気がしていたのだ。
(そうでなければ彼に浸食された僕の内と釣り合いが取れない)
ぽつんとひとつ残されたカップ。見るたびに重い出されるあたたかい記憶は今となっては苦々しいものでしかない。けれどもそれは壊してしまえる程軽々しい物でも無かった。だから、
忘れるために
(そして忘れないために)
桜の木の下に埋めよう。
出来るだけ深い穴を掘って、土底に静かにそれを置いて、やさしく土をかけて、白い花を添える。
「おにいさん、なにをしてるの?」
振り向くと近所の子だろうか、白いワンピースの少女が立っていた。彼女の黒い瞳と目が合う。
「ああ…、お墓を作っているんだ。」
彼女ははっと目を見開いた後、とても悲しそうな顔をした。
「…わたしもいっしょにおいのりする。てんごくにいけるようにおいのりする。
」
「ありがとう。」
手を合わせる姿はさながら天使だ。まだ絶望を知らない、かわいらしい天使。
僕にもこんな頃があったのだろうけれど。
もうあの頃の僕には戻れない。
僕も手を合わせて一心に祈る。
(この下には僕の恋心が埋まっている)
この暗い土のなかで、安らかに眠るように祈るのだ。