TV番組は物事の一面だけを強調
「人生の楽園」というTV番組がある。退職して第二の人生を田舎で始めた熟年夫婦の物語だ。大抵、趣味が高じた、パン屋、喫茶店、そばや、手作り民芸品、ペンションなどの開業物語だ。都会の暮らしから解放されて、地元に溶け込み、ご近所さんから新鮮野菜を頂戴したり、農作業の手ほどきを受けたりして、日々の暮らしを楽しむ様子を紹介している。この番組を見て、自分も退職したらあのような暮らしがしたい、と誤解とまでは言わないにせよ触発される人は多いだろう。
番組にケチをつけるわけではないが、あのような内容は、登場する夫婦の視聴者受けする一面だけを編集した番組であることを心しないわけにはいかない。番組制作側から見れば、視聴率をいかに稼ぐかしか念頭にない。本当のご苦労は、編集でカットされたり、意図的に取材されなかったりした、番組では放映されないところにあるだろう。
紺碧の海を見晴らす絶景喫茶店オーナー
私も、かつて石垣島で紺碧の湾を見晴らせる絶景の高台で、白亜の喫茶店を経営するご夫婦と知り合った。東京から移住したという。入店客の出入りもまずまずで、上手くいっているように見えた。実に居心地が良かったので、石垣島に滞在中は、何度もその店に顔を出した。ある時、何かの話の弾みにふと、東京に帰りたい、と言われ、えぇーこんな素晴らしいお店があるのに、と思った。
その後も何年か、石垣島に行った折には、その店を訪れケーキとコーヒーそして絶景のひとときを楽しんだ。ある時、田舎暮らしの雑誌を見ていたら、その喫茶店が売りに出されていた。どのような経緯か知らないが、あの時の奥さんのしんみりとした一言が気に懸かったままだ。
|