喫茶店に入ってから10分、やっとアイスティーを口にした。

 

味が全くしないアイスティーだ。

 

おそらく私のせいだろう。

 

この間に何の会話をしたのか覚えていない。

 

謝罪だけはちゃんとできたようだ。

 

すると、彼女がおもむろに立った。

 

「トイレ行ってくるね」

 

店に入って10分でトイレとは。

 

彼女も相当緊張しているに違いない。

 

今行ったかと思えば、すぐにトイレから出てきた。

 

その緊張感を振り払うように、彼女は大きく深呼吸をしてから席に戻ってきた。
 

「もう、大丈夫」

 

そう呟いた。

 

これもまた何の大丈夫なのかさっぱり分からなかったが、彼女の表情も少しだけ和らいだ気がした。

 

この数十分で相当疲れている。

 

本当は色々聞きたい。

 

けど、このテンションで話したくもないというのが率直な気持ち

 

。一つだけ、私がどうしても聞きたかったことがある。

 

それだけは聞こうと、声を振り絞って聞いた。

 

「なんで、彼に言った?」

 

そう言うと、彼女は口を震わせながら「ごめん」と一言だけ言った。

 

顔の表情は硬直したままに、謝っているのは口だけ。

 

それ以上は何も聞かなかった。
 

すると、彼女の携帯電話が鳴った。

 

「ちょっとごめん」とだけ言って外に出て行った。

 

その瞬間、私は勘づいた。

 

この電話は彼からの電話であると。

 

彼女が電話している姿が見える。

 

何やら様子が少し違う。

 

あきらかに普通じゃないテンションで喋っていることがわかった。
 

5分後に彼女が戻ってきた。

 

やはり、電話の相手はパートナーだった。

 

気になった私はすぐに尋ねた。

 

「何だって?」

 

彼女は小さな声で「謝ってもらったって言った。もう大丈夫」と言った。

 

この時もまた表情は一切変わらなかった。

 

この時点で私は彼への謝罪もすべきと思っていたので、「今日、彼に謝罪のメールを返信する」と伝えた。

 

彼女は少し驚いた様子で「連絡するの?」と言ってきた。

 

そこまで終えて初めてこの騒動に終止符を打てると思ったから、そこまではちゃんとやると約束した。
 

喫茶店に入ってから30分で店を出た。

 

もう私の頭の中は彼への謝罪文をどう書くかで埋まっていた。

 

彼女への申し訳なさと共に、だんだんと彼女への怒りも芽生えてきた。

 

何故、言ったんだ・・・そう自問自答しながら電車へと乗り込んだ。

 

駅に着き、自宅に帰るまで彼女との会話をずっと反芻していた。

 

彼女の「もう大丈夫」がずっと引っかかっていた。

 

あれはどういう意味だったのか。

 

そして、あのトイレへの言動も少しおかしかった。

 

と、その瞬間、脳裏に電流が走った。

 

ん?もしや・・・あいつは俺の謝罪をずっと録音してたのか!?