早速、話を始めようとした時、店員さんがオーダーを取りに来た。
「ビール2つ」
八代はそう言って続けた。
「まーとりあえず、飲むぞ。話はそこからだ」
そう言って、ドリンクが来るまで他愛ない話をする。
すぐにビールが運ばれてきた。
八代は一日外回りだったので、相当喉が渇いていたらしく、一気にビールを飲みほした。
「ビールおかわり!」
そう元気に言うと「さて、どうした、前原くん」と切り出した。
私は、両の拳を握りしめ、唾を一つ飲んでから話し始めた。
「実は、柿子さんと不適切な関係を持っていました」
そう、告白した。
八代は一瞬固まった。
そして、すぐにビールを一口飲んでから驚いた様子でこう言った。
「は?柿子さんと?」
「はい。実は数カ月前から」
八代は色々と悟ったようだ。
「そうか、わかった。で、なんでそれをわざわざ今言ってくるんだ?」
店内が一瞬ざわついた。
店に入ってきた時の八代とは違い、少しずつ表情が固くなってくるのを感じる。
「実は、昨日妻に話をしました」
八代は更に驚き「何?奥さんに言ったのか?」と目を丸くした言った。
「はい、もっと言うと、柿子のパートナーから脅されていまして。彼とも会ってきたんです」
声は微かに震えているのが自分でもわかる。
手汗は止まらない。
「もっと詳しく教えてくれ」
そう言われ、私はこの1週間で起こった全ての出来事を話した。
八代は静かに話を聞いてくれていた。
2杯目のビールを飲みほした後、ぽつりと呟いた。
「バカだな、お前は。恥を知れ」
明らかに顔は硬直していた。
いつも穏やかな八代から珍しく感じる怒りのオーラだった。
非常にまずい雰囲気を感じた。
最悪、厳しいペナルティを課されるかもしれない。
でも、それも全て覚悟の上。
「すみません・・・」と口にするのがやっとだった。
妻と部長に言うことで、自分の過ちを認め、そして一刻も早く解決したかった。
その思いを伝えた。
「今日、この後、黒川には妻と会社に話をしたと言うつもりです。これで最後にしてほしい旨を」
そう言うと、八代は興奮したようにこう言った。
「直属の部長にちゃんと話をしたと言え。強く叱られたことも言うんだ。文句があるなら連絡してこいってな」
心強かった。たくさん怒られたけど、最後は味方になってくれる八代に感謝しかなかった。
別れ際に熱くお礼を言い、もう一つの大きな行事は終わった。
どん底から少しだけ這い上がれた気がした。
そして、八代と別れるいなやスマホを取り出し、黒川に最後のメッセージを送った。
「これが最後のメールになることをお許しください。妻と会社に話をしました。妻からは離婚を迫られ、会社からはペナルティを受ける予定です。嘘だと思うなら確認すれば良いでしょう。もう私は限界です」