謝罪文を送ってから、黒川から返事は無かった。
かれこれ5日が経過しようとしている。
誠意が伝わったのだろうか。
今のところ会社にも家族にも知られていないから、最悪の事態は免れたのかもしれない。
そう安堵する気持ちと、どこかでまた別の動きが無いかが不安だった。
柿子には二度と連絡をしないと言ったものの、黒川の動きが気になるので尋ねてみた。
「彼の状況はどう?」
これを聞くこと自体が恐ろしいことだが、勇気を出して聞いた。
すると、すぐに柿子から返事が来た。
「まだ怒ってるけど、前原さんがちゃんと謝罪してくれたから良かったって言っていた」
そうか・・・良かった。
短い文章だったけど、一文字一文字に気を遣いながら誠意が伝わる文章を練った甲斐があった。
メールが来てから、その日のうちに柿子と黒川に謝罪をしたのが良かったのかもしれない。
思いのほか早い落ち着きに安堵した。
いや、そんな簡単な言葉では片付けられない。
正直、泣きたいくらい嬉しかった。
この先俺の人生はどうなるかわからないくらいに、あまりに非日常的な事が連続で起こったから。
すぐに元通りの生活に戻れるとは思えなかった。
私とて、この短期間で心に負った傷は深い。
今もなおフラッシュバックで呼吸が乱れたり、不整脈になったりする。
なにより、柿子は引き続き職場にいる。
会話を交わすことは無くなったが、二人にしかわからないこの最悪の空気感は、それだけで私の気持ちを落とすのには十分だった。
この落ち込んだメンタルを回復させるのにはどれくらい時間がかかるのだろう。
考えてもわからなかった。
今私ができることは、冷静さを取り戻し今までと変わらぬ言動をすること。
そして、あの事件の事は一日も早く忘れることだった。