朝一、電車の中で雪子にLINEを打った。

 

すぐに返信が来た。

 

「いいよ、久々だね。今日はすぐに仕事を終わらせるよ!」

 

いかにも嬉しそうLINEが飛んできた。

 

私は全く乗れないテンションで返信をした。

 

「今日は静かなところがいいな。ちょっと高いけど、ここのカラオケでどうかな?」

 

そう返信すると、すぐにまた返信が来た。

 

「いいね。私も久々に行きたかったの。じゃーここで待ち合わせね」

 

そう言って朝のLINEを終えた。
 

雪子は今や部署も違うし働くオフィスも違うから、院内で会うことはほとんど無い。

 

それだけが唯一の救いだった。

 

これから起こる新たな修羅場を想像するだけで、一気に血の気が引いてくる。

 

上の空で仕事をしながら、刻々と約束の時間が迫ってくる。

 

しかし、これからの時間は決して楽しい時間では無い。

 

いつもの何倍も慎重に会わなければならない。

 

いつどこで黒川やその追手が見ているかわからない。

 

私はスマホを取り出し、「ごめん、ちょっと先に行っててくれる?俺の名前で予約しているから、部屋に入ってて」

 

そう伝え、雪子からのLINEを待った。

 

30分後、「部屋に着いたよ。何時くらいになる?」と、雪子から連絡が入った。

 

私はおもむろにPCを閉じ、そそくさと会社を出た。

 

誰にも見られてはいけない。

 

いつもとは違う道を通りながら、約束のカラオケと着いた。

 

周りを見渡しながらエレベーターに乗り込む。

 

不審者的な人間はいなかった。

 

深呼吸をして、受付を通って予約していた部屋へと入る。
 

ドアを開けると、満面の笑みで座っている雪子がいた。

 

「遅かったじゃん。忙しかったの?」

 

そう言いながら、既にオーダーをしていたビールを渡してきた。

 

「まずは、乾杯だね」

 

部屋に入って1分も経たないうちに私はビールを飲み干した。

 

いつも陽気な雪子は、なんとなく普段と違う私の雰囲気を感じていたのだろう。

 

表情を曇らせながら、「どうしたの?そんな暗い顔して。話って何だっけ?」

 

早速切り出してきた。

 

私は、2杯目のビールを半分飲み干してたから、覚悟を決めた。

 

「実は、俺・・・」

 

声が震えていた。

 

「え?何?」

 

雪子が近づいてくる。

 

「実は俺、ある人と不適切な関係を持っちゃって」

 

雪子の顔を見れなかった。

 

一瞬でその場が凍り付いていたのだけは感じていた。

 

「は?・・・何言ってんの。私と被ってたの?」

 

明らかに声のトーンが変わった。

 

「うん、ごめん」

 

そう言った瞬間に雪子のスイッチが入ったのを感じた。

 

「誰?まさか同じ職場の人じゃないよね?誰!」

 

もう逃げることはできなかった。

 

「品目柿子・・・」

 

蚊の鳴くような声で呟いた。

 

「最低・・・」

 

声がかすれていた。

 

そして、泣いていた。

 

「バカじゃないの、最低だよ!」

 

その瞬間、目の前から大量の水が迫ってきた。

 

一瞬でびしょびしょにだった。

 

目の前は何も見えなかった。

 

そして、雪子は泣きながら部屋を出て行ったことだけはわかった。