院長への書類事件以来、私は各所からヒアリングを受けた。
八代も同様だった。
もちろん、今回の件は超機密事項として扱われてはいる。
しかし、今まで八代と私だけの秘密だったものが、いまや多くの人間が知ることとなった。
つまりは公の問題になってしまったのだ。
こうなると、もう逃げも隠れもできない。
甘んじて処分を受けるだけだった。
後日、その処分が言い渡された。
私はボーナスの不支給が言い渡された。
お金などどうでも良かった。
そして、何より八代がどんな処分を受けるのかだけが気になっていた。
結果、八代は監督不行き届きにより課長の座を降格となり、部署も異動となった。
予想を上回る内容だった。
これも黒川の思うツボだと思うと、悔しさが沸々と込み上げてくる。
後日、八代に呼び出された。
私は八代の顔を見ることができなかった。
涙目になりながら、蚊の鳴くような声で謝罪した。
八代も怒りに満ちた顔で「大丈夫」と一言だけ言った。
そして、ボソッとこう言った。
「本当に許せないなあいつは」
続けた。
「もうこれ以上は私が関わることを禁止されたから、顧問弁護士に対応を任せることにした」
もちろん、そうなるだろう。
もう個人で解決できるフェーズでは無くなってしまった。
相手はたかだか一人の個人であるにもかかわらず、こちらは顧問弁護士を使うまでに追い込まれたのだ。
しかもその顧問弁護士も単なる街弁護士ではない。
日本で3本の指に入る超敏腕弁護士だ。
そうなると、当然ながら費用も安くはない。
私のボーナスなんかで賄えなえるはずもない。
八代は早々に部屋を出て行った。
後ろ姿が何とも言えない怒りと寂しさを映し出していた。
私は心の中でもう一度謝罪をした。
悔しい。
こんな悔しいことがあるのだろうか。
考えれば考える程、あいつの思い通りになっていることが許せなくて、震えが襲ってくる。
そして、もう一つの感情が芽生えてくる。
黒川以上に、柿子への怒りが猛烈な勢いで湧き上がってきたのだ。
そもそも、悪いのは黒川ではなくお前のほうだろう。
その張本人が裏で隠れて何もせずに、のほほんと今を生きていることを想像するだけで怒りに震える。
この瞬間、私の矛先は一気に柿子へと移っていった。