八代の最後通告に対して、あまりにも早かった黒川の返信。

 

そこには下手に出ながら何度も連絡をして迷惑を掛けてしまったことへの謝罪が書かれていた。

 

弱っている。明らかに弱っている、そう瞬間的に感じた。

 

いつものしつこく強い黒川の印象とはかけ離れた内容だった。

 

あの黒川でさえ、一人で闘い続けてきたダメージの大きさが窺える内容だった。
 

私はその文章を咀嚼するように何度も読み返した。

 

3回くらい目を通した時だろうか。

 

その文章に秘められたある違和感を感じ取った。

 

それは、誤字脱字の多さである。

 

「ご返信有難うございす」「ご迷惑をお掛けて」など、明らかな文章のミスが見て取れた。

 

黒川の性格を研究していた私にはわかる。

 

ヤツは決して大雑把な人間ではない。

 

あの大胆な行動の裏に隠された非常に繊細な部分を私は知っている。

 

それを考えると、あそこに書かれた内容が、どうも黒川の本心として書かれたものには思えなかった。
 

八代は「これでようやく落ち着くでしょう」と安心していた。

 

もちろん、その可能性もある。

 

何も起こらないのがベストな青写真だ。

 

微かな胸騒ぎを感じながら仕事に向かった。

 

今日は早く帰って少し落ち着きたかった。

 

まだ今週も始まったばかりだったが連日残業が多くなっていた。

 

早々に仕事をやめて家路を辿る。

 

うとうとする電車の中で八代からメールが入った。

 

こんな時間に何だろうか。

 

八代は明日からの学会本番に向けて昨日から会場入りしている。

 

そして今日は前夜祭的な会食パーティーがあるはずだ。

 

おもむろにメールを見ると、そこにはとんでもない内容が書かれていた。
 

「今日、院長宛に不審な書類が届いた。その送り先は黒川だ」とだけ書いてあった。

 

私は度肝を抜かれた。

 

そして一瞬で体中の血の気が引いた。

 

あのメールに対する返信もなく、まさかの当院のトップである院長宛に書簡を送ったのだった。

 

内容など聞くまでもない。

 

しかも、郵送ということは事前に準備されたもの。

 

つまり、すべての行動はこの日のためにセットされていたのだ。

 

やはり、おかしかった。

 

あの文面は明らかにおかしかった。

 

このまま終わることなど無いぞと言わんばかりの文面だったからだ。

 

私は最寄り駅の一つ前で降りた。