何分話しただろうか。

 

あまり記憶は無いが、なんだかんだ15分は話していたような気がする。

 

重い足取りで家に戻ると、妻が心配そうにこちらを見て来る。

 

私は多くは語らず、ポイントだけ淡々と話した。

 

妻からは特にコメントは無かった。

 

私よりも妻のほうがよっぽど冷静なのかもしれない。

 

本来であれば溢れ出る怒りの感情をぶつけたいはずだが、それでも今はグッと堪えて冷静な姿勢を保っている。

 

それは私にとって自暴自棄になる寸前で食い止めてくれている絶対的なストッパーだった。
 

しかし、今回の電話で私の焦りと不安は再びその姿を露わにした。

 

まだまだこの日々が続くかと思うと、今の自分のメンタルでは到底向き合えない状況だった。

 

やり場のない気持ちをどこにもぶつけることができず、風呂も入らず床に就いた。

 

子どもが気持ち良さそうにスヤスヤと眠っている。

 

その天使の寝顔を見れば見る程、自分が犯した罪の大きさを悔み、涙が溢れてきた。

 

ごめんな・・・そう言って大声で泣いた。
 

いつ寝たかもわからない昨日の夜だった。

 

目覚めると、不思議なくらいすっきりしていた。

 

いつもより早く会社を出て、職場へ向かった。

 

今日の午前中は八代が出勤しているはずだ。会社に着くや否や八代にメールを入れて、時間をもらえないかと尋ねた。

 

学会前でピリピリしている八代だが、すぐにOKの返事をくれた。

 

そして、昨晩の黒川からの電話について共有した。

 

八代は神妙な面持ちで「やはり連絡が来たか」と呟いた。

 

そしこうて続けた。

 

「しつこいヤツだな。何がしたいのかよくわからないし」

 

しつこく攻撃を続けてくる黒川に対して怒りを滲ませていた。

 

黒川の怒りの矛先が八代にまで向いていることにも、八代自身は面白くない様子だった。

 

「こっちには連絡が来てないけど、いい加減面倒だな。学会が終わったら手打ちを考えよう」
 

引き続き八代に迷惑を掛けていることが本当に申し訳なかった。

 

一年で最も大事な学会が迫っている中にあって、八代の業務に支障が出ているのは間違いなかった。

 

これ以上、八代に迷惑を掛けることは、自分自身が許せなかった。

 

会議室を出て、その足で喫煙所に向かった。

 

遠くを眺めながら、タバコを大きく吸って吐いた。

 

白い煙が空中を舞いながら、都会の空に消えていった。

 

ふと、目をやると弁護士事務所の看板が目に入った。

 

私はこの時、ある決断をした。