警察沙汰になるような悪いことはしていない。
大丈夫、大丈夫だ。
そう自分に言い聞かせて、高鳴る鼓動を必死に抑えながら外に出た。
警察官は1名だった。
「お食事時にすみません。少しお伺いしたいことがありまして」
そう切り出した。
「はい。大丈夫ですよ」
平静を装いながら、静かな口調で答えた。
警察官は続けた。
「実は、今日お隣さんのお家に不法侵入した人がいまして、お隣さんから通報があったんです」
全く予想していない言葉だった。
その瞬間、一気に全身の力が抜けていくのがわかった。
今回の不倫の件とは全く別の話だった。
インターホンが鳴ってから今の今まで、一人で不安と焦りの中にいた数分間。
自分だけが一喜一憂するうごめく感情の中で踊っていた。
我に返って、おもむろにお隣さんの家を見ると、ご主人ともう1名の警察官が話をしていた。
「そうだったんですか。それは何者だったんですか?」
警察官はこう答えた。
「実は、あちらの方向に障碍者施設があるんですが、そこに住んでいる人でした」
その言葉を聞いた瞬間、ピンときた。
あいつだ!
黒川のことで頭がいっぱいになっていたが、警察官が指を向けた方向は、先日我が家の駐車場に現れた不審者の家に間違いなかった。
私は慌てて、警察官にここ数日の不審者の話をした。
警察官は驚くこともなく冷静に言った。
「そうでしたか。おそらく、同一人物だと思います。他にも色々と問題を起こしている人で」
なるほど、ここ最近、この不審者に関する通報が増えているようだった。
よくよく話を聞けば、様々なトラブルを起こしているのだが、相手は障碍者のため、おそらく身を確保することは難しいとのことだった。
結局、警察官からその施設の管理者に注意喚起をするということで話が終わった。
煌々と光る赤いパトランプを見ながら、ホッと胸を撫でおろしている自分がいた。
これで二つのモヤモヤが一気に晴れた。
不審者が黒川関連では無かったこと。
そして、不審者の存在を警察が把握していたこと。
次々と起こる新たな事象にいささか疲れていた。
また明日から目に見えぬ黒川の恐怖と闘わなければならない。
食事も大して喉を通らないから、今日は早めに寝ることにした。