妻は一旦家を通り越して、数百メートル先にある知り合いの家の駐車場に車を止めたとのことだった。
とりあえず安心した。繰り返し車から出ないように喫茶店から注意を促した。
子どもも同乗しているし、居ても立っても居られないから今すぐ帰りたい気持ちだがそうはいかない。
今はとりあえず妻からの続報を待つしかなかった。
そうこうしているうちに昼休みの時間も終わりに近づいてきた。
サンドイッチを半分頬張り、コーヒーで流し込んだ。
小走りで会社に戻り、再びLINEを開いた。
今は車を降りて知り合いの人と家の前で話をしている、とのことだった。
ひとまず良かった。
こういう時に助けてくれるのはご近所さん。
有難かった。
しかし、妻のことが気になって仕事が手につかない。
10分おきにLINEを開いては仕事に戻るの繰り返しだった。
30分くらい経っただろうか。
新たなメッセージが妻から入った。
「とりあえず家に戻れたので大丈夫」
詳しい状況はわからないが、自宅に戻れたようだ。
そうか、良かった。
不審者が今どこにいるかが気になったが、とりあえず家に帰ることができたのは一安心だ。
続けてLINEが入った。
「ご近所さんと話している時に目の前を通っていったの。少し追いかけてみたら反対方向にいなくなった」
一体何者なのだろうか。
そして、人の駐車場で何をやっていたのだろうか。
いまだに黒川に関係している人間じゃないかと恐怖がよぎる。
本人なのか、それとも派遣された追手なのか。
妻が影から見た不審者の特徴を聞くと、どうやら黒川本人ではなさそうだ。
となると、一体何者なのだろうか。
黒川の追手か、はたまた近所の人間か。
もし、黒川の追手だとしたら、相当危険な状態と言わざるを得ない。
会議の時間が迫っていた。
妻にこう連絡してスマホを閉じた。
「とにかく今日はできるだけ家から出ないで。もしまた現れたら警察に電話して」
すぐに妻から一言だけ「うん」と返事が来た。
この日からしばらく不審者は姿を現さなかった。
しかし、いつまた現れるかわからない不安は、我々家族を恐怖の時間に陥れるのには十分だった。
しばらく平穏だった日々が、ここに来て一気に警戒を強めなければならなくなった。