翌日から私のリサーチが始まった。
もちろん仕事の時間はできるだけ集中して仕事に取り組む。
心はそう決めていても、やはりいつ何が来るかわからない黒川の恐怖は半端ではなかった。
電話の音、受付内線の音、新着メールの受信。
全神経を張り巡らせながらオフィスにいる日々がずっと続いている。
唯一、心が落ち着くのは会議室に入って会議をしている時だった。
この時だけは安全地帯に入ったかのごとく、ほんのり心が落ち着く瞬間だった。
朝から晩までこの緊張感をひたすらに耐え、仕事を終えると、帰りの電車は寝る間も惜しんでひたすらに調べた。
まず、何故黒川が私の住所や妻の名前を知っていたか。
そこから考えることにした。
ヤツはかつてSNSアプリを見たとうそぶいていたことを思い出したが、それは絶対に無かった。
少なくとも住所などSNSに掲載することは絶対にあり得ない。
念のため全アプリの設定を見てみたが、やはりどこを探しても住所は無かった。
そして、妻の名前と誕生日。
そこまでをSNSで知ることは相当至難な技だろう。
謎は解けぬまま一通り考えたところで、ふと冷静になった。
そうか、これはヤツの仕業ではない。
グルになっている柿子を疑ってみることをしたほうがいい。
その瞬間、頭の中で電流が走った。
それだ!思わず電車の中で叫びそうになった。
柿子はこの会社に総務・人事として入社している。
つまり、柿子は部署全員の個人情報を見られる立場にあったのだ。
これに間違いはないだろう。
自宅の住所、妻の情報、そして子どもの情報も含めて全てを柿子を覗き見をしていたのだ。
そして、それを影で黒川に流していたのだ。
黒川がSNSと言ったのは確実に柿子を守るためのカモフラージュに過ぎない。
裏で柿子が全情報を操っているのは間違いなかった。
「クソっ・・・」
心の中で噛み締めた。
私はつくづく自分の行った行為を反省した。
そして相手が悪かったことは言う迄もない。
人事部の女とは絶対に不倫などしてはいけないのだ。
一つ紐が解けたところで、今度は黒川のことを徹底的に調べた。
ヤツは不思議なことに苗字を名乗っていた。
そして送られてきたメールアドレスには下の名前も入っていた。
手がかりはこれだけだが、今のこのインターネット社会なら手がかりは掴めるだろう。
電車の中にいることを忘れるくらい調べた。
あの手この手で検索条件を変えては調べ続けた。
そしていくつかの手がかりをヒントに、それらを合わせてみた。
これだ!
その時、点と点たちが線として私の前に現れてくれた。
黒川が勤めているのはこの会社で間違いない。
足元から込み上げてくる熱い何かを感じた。
丁度その時、最寄りの駅に到着した。
今日の私のミッションは最高の形で終わりを迎えた。