トイレに駆け込み、激しく嘔吐した。

 

それも1回では終わらず、何度も何度も出る物が無くなるまで吐いた。

 

自分でも驚いた。

 

そもそも酒は弱くないし、たった一杯のビールで酔うはずが無い。

 

体調が悪かったのか、長期間の疲れが出たのか、原因はわからなかった。

 

一通り胃の中から物が出て少し落ち着いた私は、ゆっくりと部屋に戻った。
 

気持ち悪さはあるけど、酒を飲まずにはこの地獄からの手紙は読み進められなかった。

 

もうヤケクソだった。

 

飲み放題にしたし、今日は捨て身で飲むことにした。

 

テキーラを頼んで、再び書類に目を通し始めた。

 

そこには、私と柿子が楽しく飲んだ夜のこと。

 

狂ったように過ごした熱い時間のことも鮮明に書かれていた。

 

鮮明に、そして具体的に生々しく。

 

こんなものを妻に読まれたら、想像するだけで冷や汗が出てくる。

 

それこそ私の命は無いだろう。

 

そして、妻は常軌を逸して、柿子に攻撃を仕掛けるだろう。

 

改めて事前に言っておいて良かったと安堵する。
 

地獄の手紙には、柿子との逢瀬以外にも私の言動について触れていた。

 

これもことごとく具体的に。

 

いつからか分からないが、やはり私には追手が付いていたのだろう。

 

約20ページの文書を無我夢中で読み進め、やっと最後の1枚になった。

 

そこには、最後に私の暴走を抑えるかのような脅しもしっかり書かれていた。

 

「もし、そちらが良からぬアクションをする時は、こちらも次の手段を講じます」

 

これは私だけの警告ではなく、妻が柿子に何かのアクションをすることも含まれていた。

 

そしてこう続いた。

 

「私はご家族全員のことも把握しています。ご家族に迷惑を掛けることは私も本望ではありません」

 

つまり、最悪の時は妻を含めた子どもにも攻撃を仕掛けるということが示唆されていた。
 

30分掛けて地獄の手紙を読み終えた私の目には、薄っすらと涙が溜まっていた。

 

何の涙だろうか。

 

悲しさでもない、悔しさでもない、怒りでもない。

 

表現することのできない初めて味わう感覚だった。

 

テキーラが運ばれてきた。

 

右目から涙が1滴流れた。

 

それを合図とするかのように、私はテキーラを一気に飲み干した。

 

そして、左目からも大粒の涙がこぼれた。

 

私は静かに書類をカバンにしまい、真っ暗な部屋の中で、ビールで汚れたテーブルに思い切りうなだれた。