仕事の手を止めて、足元に目をやった。
そして、深呼吸を一つした。
落ち着けと自分に言い聞かせながら、「送ってきたか。そのまま置いておいて」と妻に返信した。
元々その可能性はあると伝えていたから、妻も「わかった」と言ってくれた。
やはり、ヤツはやってきた。
柿子が会社からいなくなったのを見計らって、最後の書類を送りつけてきたのだ。
どこまで緻密な計画をしてくる男だ。
ここまで粘着質な男だとは思ってもみなかった。
そういうタイプなのか。
それとも、こういう事に慣れているがゆえの経験値がそうさせるのか。
柿子から突然送られてきた真夜中のLINEから、もう3カ月以上が経とうとしている。
思い返せば、全ては黒川の思い通りの展開になっているのかもしれない。
しかし、自らの手で全てを暴露し、今この状態になっていることに私の後悔は無かった。
おそらく、あの時50万円を支払っていたとしても、またすぐに金銭を要求してきたに違いない。
そっちのエンドレスのほうが何倍もきついに決まっている。
だから、自分の決断は正しかったと自分に言い聞かせていた。
もちろん、家族や会社に対する懺悔の気持ちは底なしだが。
私はしばらく送られてきた画像を眺めていた。
妻を宛先にしてくること自体がえげつない。
そして、送り主が空欄で送ることができること自体にも驚いた。
中身は何が入っているのか。
そして、何が書かれているのか。
たった1枚の画像から膨らむ想像は数知れなかった。
そして、私は迷うことなく八代にメールを送った。
「今からお時間いただけますでしょうか」
すぐにOKの返事が来て、会議室に籠った。
ついに書類が届いたことを八代に伝えた。
八代は驚いた表情で「来たのか?」そう呟いた。
その可能性があることは二人の間で共有されていた。
しかし、八代にとっては、それすなわち自分の交渉が敗北したことを意味する。
私と思いは一緒だった。
八代もまた私の家族にだけは被害が行くことを恐れていた。
しかし、もろくもそれは崩れ去った。
ついに魔の手が家にまで忍び寄ってきたのだ。
八代はその文書を見ているから、「奥さんには見ないように言ったか?」と声のトーンを上げて言ってきた。
「はい、そこは大丈夫です」
私は冷静に言った。
それを聞いて八代も落ち着いたのか、とりあえず様子を見ようということになった。
ヤツは既に一線も二線も超えている。
次の線を超えた時は、マジでヤバイことになることを悟っていた。
私の警戒心と恐怖心は更に強くなっていった。