八代との電話を終えて部屋に戻ると、早速もう1週間会社を休むことを妻に伝えた。

 

黒川の怒りが沸々と燃え滾っているならば、妻の柿子に対する怒りも相当なものになっていた。

 

絶対に訴えてやると言って聞かない。

 

色々と調べて民事でどういう対処をして、いくら慰謝料を取れるかまで調べていた。

 

しかし、私はその高ぶる妻の感情を抑えるのに必死だった。

 

何故なら、今ここで妻が感情的な行動を取れば、次に標的になるのは妻であり子どもでもある危険性が高かったからだ。

 

私はどんなに攻撃を受けても良いと思っていた。

 

しかし、今となっては会社までも巻き込んでの大事になっている。

 

その飛び火が家族に行くことが容易に考えられた。

 

子どものためにもとにかく今は落ち着いてくれ、と妻をなだめた。
 

そして、もう一つ私がやらなきゃいけないことがあった。

 

それは同じ部署のメンバーに説明することだった。

 

1週間も休暇をもらっていたのに、更に1週間休むことになるなんて普通ではあり得ない。

 

それをどうやって説明しようかずっと悩んでいた。

 

そして、苦肉の策として、旅行中に家族の体調が悪くなり看病しなければならなくなったと嘘をつくことにした。

 

リモートでの仕事はできるという前提でメンバーに理解をいただいた。

 

ただ、申し訳ないが、私にとっては部署のことなどどうでも良かった。

 

これ以上、事が大きくならないこと、そして家族にまでその危険が及ぶという最悪の事態を避けることだけに集中していた。
 

長い長い追加の1週間休暇が終わった。

 

結局、2週間会社を空けることになった。

 

そして、久しぶりに会社に行くと、そこに柿子の姿は無かった。

 

どういう状態で会社を去ったかはわからないが、とりあえず会社を辞めたということだけは見て取れた。

 

私は真っ先に部署のメンバーに謝罪し、ホコリが溜まったデスクを掃除しながら、この2週間の出来事を振り返っていた。
 

朝礼が終わった後、八代に呼ばれた。

 

そこには柿子の直属の上司もいた。

 

八代はここまでこの件のことを社内の誰にも話していなかったが、さすがに柿子の上司にだけは伝えたようだ。

 

八代からその事を詫びる言葉をもらいながら、今回の柿子退職騒動のことを説明してくれた。

 

なんとか、最低限の引き継ぎをして柿子は普通に去っていった。

 

しかし、その代償は大きく、ぽっかりと空いたその業務を上司が即席で引き継ぐことになったと説明を受けた。

 

私は改めて二人に向けて謝罪をした。

 

ここまで会社に迷惑を掛けてしまったことが、本当に申し訳なかった。

 

「申し訳ございません・・・」

 

声にならない声を必死に絞り出して謝った。