このままでは完全に自分が潰れてしまうことは目に見えていた。

 

24時間、黒川の恐怖に怯えながら、八代からの連絡の有無も気を揉む。

 

そして、常に情報を共有している妻から連日入る怒りのLINEも収まらない。

 

私は0か100の人間だから、これ以上感情が高ぶると自分でも何をするかわからない。

 

「頼むから、今は静かにしててくれ!」

 

逆切れとも取れる怒りを妻にぶつけながら、何とか自制心の端っこにぶら下がりながら、地獄の毎日を過ごしていた。
 

目の前のことしか見えてないから、未来のことなんて全く目がいかない。

 

自分のスケジュールを見ると、長らく取れていなかった長期休暇が間もなくやってくる。

 

子どもは私の身に起きていることなんて知らないし、せめて子どもだけは楽しい日々にしてあげたい。

 

そこだけは妻と一致していたから、この休みに家族旅行に行くことになった。

 

正直、私も妻も旅行なんて気分じゃない。

 

常に監視されている恐怖の中で、私は旅行に行っても黒川の恐怖から抜け出すことはできない。

 

そして、八代からいつ連絡が来るかもわからないから、落ち着く時間なんて1秒も無かった。

 

それでも、私には微かなプライドが残っていた。

 

ここまでボロボロにされて、家族の幸せな時間まで奪われる事だけは絶対に許さない。

 

家族を守ることだけは絶対に譲らないと決めていた。

 

例え、黒川と刺し違えても。
 

休みは1週間もらっていた。

 

前半は家で過ごし、後半は旅行に行った。

 

必死に忘れようと自己暗示にかけ、少しでも楽しめるように自分を洗脳した。

 

幸い、休暇中にこの件に関する連絡は何も無かった。

 

家族といるごくごく普通の時間が、私にとっては天国だった。

 

あまりに地獄にいた時間が長すぎた。

 

家族の笑顔を見るだけで、私の心は涙を流していた。

 

それでも顔は必死に笑い、父親としてひとときの楽しい思い出を作ることに専念した。
 

旅行先から丁度自宅に戻った時。

 

この1週間静かだったスマホが鳴り出した。

 

「誰だ・・・」

 

恐る恐る画面を見ると、電話の相手は八代からだった。

 

メッセージではなく電話であることに体は反応していた。

 

久しぶりの恐怖と嫌な感覚が全身を走っていった。

 

「もしもし」

 

明るめのトーンで出る。

 

八代は平静を装うように言った。

 

「ごめんね、休み中。今は家?ちょっと家族と離れて喋れる?」

 

そう言われ、もう新たな悪い事が現在進行形で動いていることを悟った。

 

「はい。今は大丈夫です」

 

そう言うと、八代は続けた。

 

「実はさ、また黒川と会ったんだけど」
 

・・・