私は言葉を失った。
今目の前で八代が言ったことが信じられなかった。
なぜ、私の知らないところで八代が黒川と会うのだろうか。
あまりにも想定していな展開に私の体は小刻みに震え始めた。
「えっ?・・・」
やっと出た言葉がそれだった。
八代はただ頷くだけだった。
沈黙は10秒くらい続いただろうか。
私からの発言を待ちながらも、うつむいたままの私を見て業を煮やした八代が口を開いた。
「今朝、急に黒川からメールが入った。前原のことで急いで会いたい、とね」
なんと、黒川が今度は八代に直接コンタクトを取ってきたのだ。
またもや信じられないことが起きてしまった。
文字通り、信じられないことが。
耳を疑った。
この1週間おとなしかったのは、そのための準備だったのか。
私の最後通告を受け取ってから、着々と次の準備を仕込んでいたのだ。
こんなことがあるのだろうか。
私は八代の言葉に返す言葉が無かった。
やっとの思いで出した言葉は、「どうでしたか・・・」としか聞けなかった。
八代は今日のことを一つ一つ教えてくれた。
黒川が意外と真摯な対応だったこと。
先日、私と会って話をしたこと。
そして、私と柿子の不適切な言動が記された書類も見たとのこと。
私があの時見せられたのはたった1枚だったが、その枚数は20枚を超えていたと言う。
私は恐る恐る聞いた。
「その書類には何が書いてあったのでしょうか」
そう尋ねると、八代は困惑した表情でこう言った。
「普通には言えないような内容がね。まーそれが事実ならあなたが一番分かっているだろうけど」
信じられない。
ただの行動記録ではない。
私と柿子の間に起こった全ての言動が事細かに書かれていたというのだ。
黒川ならやりかねないだろう。
とことん私を絶望の淵へと貶めるつもりなのだろう。
そして、最後に八代は言った。
「黒川が望んでいることは一つ。あなたに重い罰を与えて欲しいということ」
そしてこう続けた。
「しかし、会社としては現段階で会社にとっての重大事項としては捉えていない。損害を被っていないし、社員間の個人的な問題だから。よって現状ペナルティは考えていないことを伝えた」
言葉が出なかった。
急に呼び出され、あんな醜い書類を見せつけられ、それでも私を守ってくれた八代に感謝の気持ちしかなかった。
うつむきながら、「有難うございます」と言って席を立った。