柿子の電話が終わるまで、喫煙所にこもった。
改めて、あの激しい口調で電話する姿は一体なんだったのか。
黒川と柿子が何かで揉めているのは間違いなかった。
嫌な予感が頭をよぎる。
その瞬間、猛烈な吐き気が襲ってきた。
ぐっと耐えて、なんとかその場で吐くことは回避した。
おそらく時間の問題だ。
そう思った私は、半分も吸っていないタバコを消してオフィスへと戻った。
その時、何者かが私に話し掛けてきた。
その声は、部長の八代だった。
「朝の会議は申し訳ない。ちょっとこの後話できる?」と言ってきた。
私は「いえいえ。もちろん大丈夫です。会議室に行きますね」
そう言って会話は終わった。
オフィスに戻った時、再び猛烈な吐き気に襲われた。
急いでトイレに行くと、昼に食べたサンドイッチが勢いよく飛び出してきた。
まさか食中毒ではないだろう。
その原因は紛れもなく精神的なものだった。
最近、ずっと空吐きのような症状が出ていた。
そのうち吐くんじゃないかと思っていたら、案の定吐いてしまった。
また込み上げてきた。
トイレ中にうずく声が響く。
これも誰かに聞かれたらまずい。
余計な詮索をされたくないし、無駄なコンタクトは避けたい。
少し落ち着いたタイミングでトイレを出て、何事も無かったかのように会議室に向かった。
そこには、いつもと違う八代がいた。
明らかに顔色がおかしかった。
私はこの一瞬で色々なことを想像した。
最近起こった重要顧客からのクレームが予期せぬ方向に行ってしまったのか。
それとも、まさか黒川のことじゃないだろうか。
と思った時、さっき外で激しい口調で電話をしていた柿子のことが頭をよぎった。
間違いない。
これは絶対に黒川のことだ。
そう思ったと同時に、八代が静かに口を開いた。
「今日、午前中どこに行ってたと思う?」
私はとっさに「あのお客さんですか?」と言った。
すると、八代はうつむいた顔を上げて、鋭い眼光でこちらを見ながら首を振った。
そして、こう続けた。
「黒川に会ってきたんだよ」
私はしばらく動けなかった。
そして、声も出なかった。