この件が起きてから初めて、自らの意志を持ってアクティブな行動に出たかもしれない。

 

妻と会社に勇気を出して告白をしたことが、私にとっては捨て身の覚悟となって今までに無い力を発揮できた。

 

あれ以来、妻とは毎日のように口論をする日々。

 

八代ともなんとなく気まずい雰囲気。

 

そして、オフィスには依然として柿子がいるから私の心は休まらない。

 

そして、いつ黒川からアクションが来るか、不安でいてもたってもいられない。
 

しかし、あの最後のメッセージを送ってから1週間が経とうしているが、いまだに黒川からの連絡は無い。

 

さすがに、私が妻と会社に全てを白状することなど夢にも思わなかっただろう。

 

あいつが望んでいたのは、家族か会社に連絡すること。

 

それを一気に両方をやってしまったのだから、いささか驚いていることは間違いない。

 

しかも、自らの手でそれを実行してしまったのだから。
 

もちろん、これで全てが終わるとは思っていない。

 

何かしらの連絡が来るだろう。

 

しかし、ここまで静かなのはポジティブと捉えることができる。

 

あそこまで感情的な男がここまで黙っていることは普通に考えて難しい。

 

これは同じ男としてもわかる。

 

熱が覚めたのか、それとも次なる作戦を考えているのか。

 

それは分からないが、悪魔からの連絡が無い日々は極めて平穏だった。
 

この日は仕事の大事な打ち合わせで朝から八代と打合せ予定だった。

 

迷惑を掛けている会社に対して、せめて仕事だけはしっかりやらなければならないとあの日の夜に誓った。

 

自分自身のメンタルも少しずつだが前を向いてきている。

 

仕事にもやっと気持ちが入ってきていた。

 

朝、会社に来ると矢代の姿はなかった。

 

あれ?打合せ忘れているのか、と思いながらも部長の出社を待った。

 

すると、打合せ開始予定時刻から遅れること5分、一本のメールが入った。

 

「ちょっと急用が入ったので、申し訳ないけどリスケしてくれる?」

 

最近、顧客とのトラブルが続いている。

 

おそらくその関連だろうと悟った。

 

「はい、わかりました」と返信して、自分の仕事に戻った。

 

昼になっても八代は戻ってこなかった。

 

スケジュールを除くと、私の後の会議もキャンセルになっていて、午前中は休みと入っていた。

 

ん?仕事じゃないのか。

 

いつもとは違う違和感を感じながらも、何か急な用が入ったのだと昼休みへと外に出た。

 

この時、これから起こる更なる悲劇が迫っていることなど、私には全く知る由もなかった。