部長の八代にメールをしてから1時間くらいが経過した時、返信が届いた。
「急にどうした?何かあったかい?」
それはそうだ、今日の今日いきなり夜は空いてるかなんて言われたら、上司とてビックリする。
会社か家庭かわからないが、何か大きな相談事があるのは容易にわかっただろう。
「はい、ちょっと急ぎのご相談がありまして。急で申し訳ないのですが、今日お話しできると大変助かります」
私の中ではもう今日しかない。
1日でも早く自分ができることを遂行し、1日でも早く黒川の呪縛から解き放たれたかった。
すぐに八代から返信が入った。
「今日は外出だからな。ちょっと状況によっては厳しいかもしれない。明日、事務所で話すことはできない?」
いささか困惑した様子がメールからも見て取れる。
しかし、そんなことで引ける状態ではない。
私にとっては絶対今日じゃないとダメなのだ。
「申し訳ありません。30分でも1時間でも結構ですので、今日お時間いただけないでしょうか」
しつこく食い下がった。
結局、八代は承諾してくれた。
時間、場所を連絡するからもう少し待つようにと言われた。
ホッとした。
今日話せるのと明日話せるのとでは、メンタル的に全然違う。
1分でも1秒でも早く事を進めたかったのが今の正直な気持ちだ。
就業時間に迫る頃、八代から場所の連絡が入った。
すぐに仕事をストップしてその場所へと向かった。
店に到着すると、八代はまだ来ていなかった。
とても落ち着いた雰囲気のレストランで、リクエストしていた個室を予約してくれていた。
偉そうに個室なんて普通なら希望しないが、今回はいつもと状況が違う。
いつどこで誰に見られているか分からないから、慎重に慎重を期さなければならない。
今日もまた、鳴りやまない鼓動と止まらない手汗がじわじわと緊張を増幅させる。
覚悟は決めたとは言え、これはこれで耐え難き修羅場である。
しばらくして、八代が遅れてやってきた。
「ごめんごめん、前の会議がやっと終わって」
そう爽やかに声を掛けてくれたが、八代もどこか緊張している様子だった。
私はうつむきがちに「いえいえ、本当に急ですみません。お時間ありがとうございます」とまず御礼を伝えた。
八代は間髪入れずにこう言った。
「どうした?犯罪でも犯したのか?」
その顔は半分笑っているけど、半分本気の顔だ。
もったいぶる時間など無い。
私は静かに口を開いた。