仕事中も妻とのやり取りは耐えることがない。
私への怒り、そして柿子への怒り。
「女のことが許せない」とひっきりなしにメッセージが届く。
私はとにかく今は落ち着いてほしいことを伝える。
妻が暴走し、私も暴走したら、文字通り全てが終わってしまうのだ。
そして、それは黒川の描いている破壊のシナリオ通りになってしまう。
だから、「待ってくれ」とひたすらに説得した。
今日のスケジュールを眺める。
直属の上司である部長は終日外出だ。
むしろ、そっちのほうが都合が良いかもしれない。
一旦、すべてを忘れて仕事に集中しようとする。
しかし、周囲に起こる全てのことが私に恐怖を与えてくるのだ。
いつまた会社にメールが届いてくるかわからない恐怖。
個人への連絡ならまだよい。
しかし、万が一、社内全員にとんでもないメールが送られてきたらどうしようという強迫観念に襲われる。
メールが来る度にすぐに宛先を確認する。
そしてもっと恐ろしいことは、電話だった。
メールを送ってくるくらいの度胸があるなら、最悪電話をしてくることだってあり得るだろう。
もし、電話がかかってきたら・・・想像するだけで恐くて仕事が手につかない。
電話が鳴る度に誰よりも早く発信者番号を確認する。
1分1秒毎にこんなに神経が擦り減る経験などない。
1秒たりとも気が抜けないのだ。
そして、恐怖によって衰弱した心の妄想はつきない。
最も恐ろしいこと、それは、黒川がこの場所に来ること。
それがこの世で一番恐ろしいことなのだ。
内線が鳴る度に、そして玄関に通ずるドアが開く度に、私の全身はビクッとする。
結局、仕事は全く手につかない状態で午前中を終える。
昼休みは今日も喫煙所にこもる。
昨日起こった激動の1日を振り返っていた。
体験したことのない恐怖に包まれながらも、どうすべきかを必死に模索していた。
答えは出ないままオフィスに戻ると、部長は既に外出していた。
そして、このタイミングで部長にメールを送った。
「突然ですみません。今日の夜お時間をいただけないでしょうか」
そう、昨日もう一つ決心したことは、会社に全てを話すことだった。
ここまで来てしまった私には、家族にも会社にも全てを告白することでしかもう前へ進む方法は無いと思っていた。
そして、1時間後に上司から返信が届いた。