悲劇だった。
絶望だった。
あまりにも非現実だった。
どんな言葉を並べてみても、昨日という一日を超える地獄の日は無かった。
朝、自分が目覚めたのはベッドではなくリビングの床。
ガチガチになった体を起こし、昨日が夢でなかったことを再確認した。
子どもが降りてくる足音が聞こえる。
まずい、何かあったことを悟られてはならない。
ずっと前に起きていたかのような素振りで「おはよう」と言った。
しかし、子どもは何故か怒っているように見えた。
何故かはわからない。
でも、いつもとは違う雰囲気だった。
昨日の妻とのやり取りが聞こえてたのか。
それとも敏感な子どもセンサーが何かに反応したのか。
わからぬまま子どもに話しかけていると、続けて妻も起きてきた。
お互いに目を合わせず「おはよう」とだけ言った。
自分でも分かるほどに酒臭かった。
水1杯とコーヒー1杯を一気飲みし、家を出た。
いつもと同じ景色のはずなのに、自分には全く違う景色に映っていた。
左右を見渡し、不審者がいないかを確認して駅へと向かった。
あいつは全てを知っている。
もしかしたら家に来るかもしれない。
今まで感じることなど無かった恐怖が、24時間私を付きまとうことになる。
すれ違う人間、後ろから歩いてくる人間、全てが不審者に見えてくる。
家に来なくてもいつ私を襲ってくるかもわからない。
それどころか、常に私は監視されているかもしれない。
そんな恐怖を抱えながら、毎日を過ごしていかなければならなくなってしまった。
これもあいつの思うツボなのだろうか。
周りを警戒しながら慎重に歩みを進め、駅に着いた。
ここでも全く油断ができない。
いつどこで誰が見ているかわからない。
いつもと同じ列に並ぼうとするが、周囲を確認しながら発車直前で違う車両へ乗り込んだ。
ここでも、全員が敵に見える。
不自然に携帯を見ている人がいると、私を盗撮しているのではないかと思う。
私に近づいてくる人がいると、私を尾行しているのではないかと疑う。
常に神経をすり減らしながら会社へと向かった。
この時点で心身はボロボロになっていた。
そして、休む時間などなく昨日決心したもう一つのことを遂行するために、その準備を始めた。