やっと、アイスコーヒーを少し口に含んだ。

 

すっからかんの胃にはしみる。

 

この場所に来てからまだ10分も経っていないだろうか。

 

既に私は経験したこのない恐怖で、顔を上げることはできなくなっていた。

 

そして、そんな私に拍車を掛けて黒川が問い詰めてきた。

 

「一つ一つ言え。ここで、お前と柿子は何をしてたんだ?」

 

私は何も言えなかった。

 

ここまで知っているなら、向こうも何が起きているかを当然知っているはずだ。

 

それを一つずつ根掘り葉掘り聞くのは、ただの嫌がらせでしかなかった。
 

私が黙っていると、黒川の口調はまた荒さを増してきた。

 

「はやく、言えよ」

 

私にはもはや声にならない声さえもでなくなっていた。

 

もうここで死んでもいい、とさえ思っていた。

 

全く答えない私に違うアプローチをしようと思ったのか、背景を話し始めた。

 

「なんで俺がここまで知っているかわかるか?」

 

私はうつむきながら、「わかりません。なぜですか?」と答えた。

 

「あいつはな、携帯のセキュリティは何にも設定していなかった。知ってるか?アプリを見れば全てわかるんだよ。バカなやつだ」

 

うつむいていても、鋭い眼光がこちらを見ているのがわかる。

 

今の自分には冷静に判断できる能力はないから、ただ「そうなのか」と思うしかなかった。
 

そしてまた本題へと入っていく。

 

「俺は柿子に問い詰めた。あいつは全て話した。酔っていて覚えていないこともあったけどな」

 

脳裏に黒川に問い詰められている柿子の姿が浮かんだ。

 

泣きながら答えたに違いない。

 

しかし何故、黒川がいちいちそんなことを言ってくるのかもわからない。

 

本当のことなのか、嘘なのか。

 

それすらも判断がつかず、とにかく私はいつの間にか崖っぷちへと追い込まれていることだけは理解した。
 

黒川は続ける。

 

「この店でキスをしたな。じゃー、この日のこの店で何をした?言え」

 

拷問以外なにものでもなかった。

 

そんなことを言えるはずがない。

 

目の前の男は全ての悪事を私に認めさせようとしている。

 

謝罪をしたら許してもらえるなんて、考えが甘過ぎた。

 

私は見たことのない地獄に二歩も三歩足を踏み入れてしまっているのだ。

 

うんともすんとも言わない私に対してまた黒川の声が響く。

 

「早く言え!」

 

怒鳴られれば怒鳴られるほど私は何も言えなくなっていた。

 

もういい、好きにしてくれ・・・。

 

うっすらと涙が目の奥からやってくる。

 

テーブルもアイスコーヒーもどんどんと霞んでいった。