この辺の場所は何となく知っているが、日常的には訪れない。

 

細かい地理は全然分からないから、グーグルマップを辿って行く。

 

歩いて10分くらいの距離だった。

 

時間は19:20を過ぎていた。

 

約束の時間は19:30。

 

やばい、このままだと遅刻してしまう。

 

謝罪に行く立場で遅刻しようものなら、とんでもないことになる。

 

急激に焦り始める。

 

その瞬間、私の足は勝手に走っていた。
 

そんなに難しくない経路だ。

 

急いで行けばなんとか間に合うはず。

 

なりふり構わず全力疾走して目的地へ急いだ。

 

ちょうど19:30になった時、ようやく目的地が目の前に現れた。

 

着いた・・・着いてしまった。

 

何とも言えない感情が押し寄せる。

 

呼吸も心も落ち着かせる間などなく、とりあえず入口へと急ぐ。

 

しかし、入口が分からない。

 

どうやら裏手に来てしまったようだ。

 

ふざんけんなよ・・・そう呟いて正面へとまた全力で走っていく。

 

19:35、5分遅れでラウンジの前に到着した。
 

息切れが半端じゃない。

 

知らぬ間に汗が滲み出ている。

 

駅からここまでの記憶があまり無いが、自分の想像を上回るスピードでここに来たようだ。

 

もう時間が無い。

 

何も考えずに地下へと続く階段を降りていった。

 

入口の重い扉を開けて店内へと入っていった。

 

「いらっしゃいませ」

 

スーツを着たいかにも高級感を漂わせたスタッフが声を掛けてきた。

 

「あ、待ち合わせなんです」

 

そう言って店を見渡すが、思ったより店内は広い。

 

そして、一人で来ている客も複数いて誰が黒川かわからない。

 

スーツを着た40代くらいのサラリーマンが2人。

 

60代くらいの細身の初老がこちらを気にしている。

 

間違ってはいけないから、スマホを取り出して恐る恐る黒川に電話をした。

 

コール音が鳴る。
 

すると、こちらに背を向けて一番奥に座っていたシャツ姿の男が電話に出る素振りを見せた。

 

私は静かに呟く。「もしもし」

 

すると、「もしもし」とその男性から返答が返ってきた。