会社のメールでやり取りをするのは得策ではない。
とりあえずメールのスクショと共にLINEで「こんなメールが彼から送られてきた」とだけ打った。
5分後に彼女から返信が来た。
思いのほか普通のトーンで「わかった。本当にやってきたんだね」と言った。
確かに、夜中のLINEに彼が激怒していることは書いてあった。
しかし、こちら側に何かアクションをしてくるなんて想定できなかったし、柿子もまた同じ気持ちだったのかもしれない。
今の自分にとって最優先事項は、今起きているこのとんでもない事象が、これ以上に大きくならないことだ。
私に直接かつこのスピード感で連絡をしてくるということは、この時点で既にある種の一線は超えている。
非常に危険な状態と言っても良いだろう。
だから、何としてでもこのピンチを最小限に食い止めなくてはならない。
そこで、私が選んだ道は、話す場を設けて彼女へ誠意ある謝罪をすることだった。
このやり取りの流れで、彼女に対して仕事終わりに時間が欲しい旨を伝えた。
彼女からすぐにOKの返事が来た。
とにかく仕事は手に付かないし、常に心も体も震えている。
早くこの場を収めたい、ただそれだけだった。
仕事を早々に切り上げて約束の喫茶店へと向かった。
ここは普段なら私が大好きな喫茶店。
カレーライスとアイスコーヒーが抜群にうまい。
ここはある意味ホームだから、万が一に備えてここを選んだ。
幸か不幸か、この日馴染みのマスターはいなかった。
彼女は私より早く店へ来ていた。
会話を交わすことなく腰を下ろす。
この席の空気だけが他の席とは全く異なっていたのは、オーダーを取りに来た店員さんにも伝わっただろう。
私はアイスティーを頼んだ。
「いいの、それで?」と柿子が言う。
どういう意味かわからないが、まさかお酒じゃなくても良いのかという意味だったのだろうか。
「うん」とだけ答えて、早速本題に入った。
私が今やらなきゃいけないことは、とにかく謝罪すること。
彼女に対しても彼に対しても誠意を示すことが、解決策への最短距離だと思っていた。
震える声を必死に抑えながら、「傷つけてしまい申し訳なかった」と気持ちを込めて謝罪した。
彼女も小さな声で「うん、私もごめん」と言った。
これで全てが良い方向に行くだろうと私は確信した。
朝からずっとただならぬ緊張感が体にまとっていたが、ほんの少しだけ肩の荷が降りた気がした。