相変わらず午後も仕事に身が入らない。

 

それでも周囲にはこの変化は悟られてはならない。

 

心は全くここにあらずだけど、必死に作り笑いをしながら、必死に咳払いをしながら声を振り絞っていた。

 

どんなに冷静を装っても、もう一人の自分が「やばい、やばい」と囁いてくる。

 

「引っ込んでろ!」と言って無視するのだけど、一度こうなってしまったらもう不安で不安でしょうがない。


昼休みから2時間程経ったとき、一本のメールが入った。

 

見たことの無い宛先だったから、迷惑メールだと思って削除しようとした次の瞬間、体に戦慄が走った。

 

そこにはこう記されていた。

 

「柿子に取ったあなたの言動を許すことはできません」

 

メールはこう続いた。

 

「彼女へ誠意ある謝罪をしなければ、私は次なる手段を講じます」


まさか・・・信じられないことが起きた。

 

知らないはずの私のアドレスに、柿子のパートナーからメールが入ったのだ。

 

心臓が止まりかけた。

 

目の前で起きていることがにわかに理解できなかった。

 

そして、固まった。

 

今まで平静を装っていた全ての仮面ははがれ、そして見るからに狼狽した。

 

まず私が思ったことは、このメールが会社に見つかったらどうしようかと言うことだった。

 

会社もセキュリティを強化しているから、見ようと思えば見れてしまう。

 

常に監視をされていないにしても、万が一見られたら全ては終わる。

 

とっさに削除ボタンを押した。
 

しかし、わずかにも冷静な自分がまだ残っていた。

 

いや、全て消したら宛先も内容も全てわからなくなる。

 

そう思った私は、一旦受信トレイに戻しスクショを取った。

 

どうしよう・・・とんでもないことになってしまった・・・。

 

もう時間は戻らない。

 

後悔は先に立たないまま、放心状態のまま時間だけが流れてくる。
 

何度も何度も深呼吸をして、何度も何度もトイレに行き、冷静に考えた。

 

この状況はマジでヤバイ。

 

とんでもないことが起きている。

 

そう気づいた私は、朝から封印していた禁じ手を解放することにした。

 

そう、柿子へ連絡を取ることだった。

 

この時点で私は彼女に相談すればまだ大事にはならないかもしれないという淡い期待があった。

 

そんなはずは無いのだが。

 

とりあえず、そのメールを柿子へ転送した。