当たり前だが、あの一件があって以来、二人の距離は急速に縮まっていく。
男と女は体が触れ合った瞬間に、脳内理性を破壊する信号が発出し、盲目ロードへと進んで行く。
それでも二人は40代の良い大人。
そんなことを職場に持ち込むことなんてもってほかであることは理解している。
だから、今日もいたって普通の顔をしながらお互い仕事の時間を過ごしていく。
むしろ、知らぬ間に少しずつ仲良しになっている絶秒な雰囲気を醸し出しながら。
周囲の人間はよもや二人がそんな関係になっていることなんて知らない。
部署も違うし、どちらかと言えば遠い存在。
そんな二人がまさかあの距離感で近づいていることなど想像もしていないだろう。
私達もまた、職場では距離の置いた関係として存在し、しかしひとたび仕事が終われば猛烈にその距離を縮める存在になっていった。
二人ともこの関係が良くないのは十分に分かっていた。
イエローカードの一線は超えても、レッドカードの一線を超えてはいけないことは認識していた。
だから、イエローとレッドの狭間で目一杯距離感を近づける。
そこに今まで経験したことのない快楽と興奮を覚えていた。
二人だけの時間はどんどん増えていった。
お酒を飲み、個室空間に行き、密室の中でソフトな関係を結ぶ。
成りやまない禁断の果実をほおばりながら、大人達はその欲望を抑えることができずに底なし沼へとはまっていく。
大人になると、良くも悪くも仮面をうまく使い分けながら生きていくことができる。
若者だったら一時の燃え上がる炎と共に、舵取りができずに方向を失うことは多い。
しかし、大人は違う。
表と裏をしっかり認識しながらうまいこと生きていくことができるのだ。
それが後になって最悪のシナリオに近づく要因になるとは思ってもみない。
一度狂った歯車は、もう戻ることができなくなっていた。
それを強制的に戻してくる、あの出来事がやって来るまでは。