あの飲み会以降、職場でも顔を合わせれば話をするようになった。
以前よりも表情が明るくなった気がして、少しでもその手伝いができているかと思うと嬉しかった。
しかし、その裏で滲み出てくる仕事の苦悩は隠せていない。
いくら飲み会で愚痴を吐いたからと言って仕事が楽になるなんてことはない。
寝ても覚めても明日はやって来るから、日々闘わなければならない。
そうなると知らぬ間に心身は疲弊し、気が付けばストレスの塵が積もって山となっている。
彼女はそんな部分を必死に隠して強がるが、洞察力の高い私にはそれが見えてしまう。
あー色々まいっているなと遠目からでも感じることがしばしば。
そうは言っても私も自分のことで精一杯だから、仕事中にいちいち彼女に気を配るなんてことはしないし、できない。
お互い忙しい日々を送りながら、時間が経過する。
ある時、給湯室で水を汲んでいると彼女がやってきた。
普段は勝気な表情で社内を歩き回っているが、ここに来るときはその表情も少し緩む。
「難しいですねー、人間のことって」とおもむろに呟く。
続けて「今日は金曜日ですよー?」と上目遣いでこちらを見てくる。
そうか、あっという間に1週間が経った。
自分でも気づかなかったが、今日は金曜だった。
金曜と分かった瞬間にヤル気が無くなった私は、席に戻るやいなやパソコンを閉じた。
一人で飲みにでも行くかな、と立ち上がった時、ふと彼女の顔が思い浮かぶ。
目をやると、まだ厳しい顔をしながらパチパチやっている。
私はもう一度座り再びパソコンを開けて、ダメ元で聞いてみた。
「もし良かった飲みに行く?」
すぐに返信が来た。
「はい、行きましょう!」
この日もたくさん飲んでたくさん喋った。
二度あることは三度ある。
ここから、頻度を上げて二人で飲む機会が急増していく。
この頃から、自分が励ましているつもりだけど、気づいたらこっちが励まされていることに気づく。
彼女といるととても楽しいのだ。
この時点でもう地獄へ足を一歩踏み入れていることなど、当時の私は知る由も無かった。